意識

 制服から着替え終わった後、私たちが向かったのは演劇、その後は食事をしてから屋敷に送ってもらい、別れました。

 演劇は幼い時に家族としか行った事がなく、今日はとても新鮮な1日でした。


「ふーん、それでお姉様は今もニヤニヤしているんですね。そんなに楽しかったですか?」


 帰って来てから部屋でゆっくりとしていると、いつものようにティアが入って来た。

 今日あった事を話していると、無理やり棘のあるような言い方をしてくるけど、所々、私をからかおうとしているのが見える。


「ニヤニヤなんてしていません! けれど、楽しかったのは本当……」


 今までも楽しいことはいっぱいあった。だけど、こんなに安心して1日を過ごしたのは記憶にない。

 思えば私はいつも、アレの婚約者に決まってからは常に他人の目を気にして来ました。みんなの見本になれるように、そう意識して来ました。


 それでも褒めてくれるのは家族や王妃様だけで、何も言われない、伝わらない。むしろ邪険に扱われる中、ベル様とのお出かけは楽しかった。私の手を引いて、話してもいないのに私が行きたいところに連れて行ってもらい、食事では知らない知識を話し合った。すごく楽しかった。それに――


「褒められるというものは嬉しいものですね」


 ベル様はお世辞ではないと言っていたけど、正直、別にどちらでもいい。ただベル様の前だと、他の女の子が言っていたように、自分を着飾ってみたい。そう思ってしまう。


 相手に合わせたドレスや無難な制服ではなく、今日のような特別でもなんでもない服を来てもう一度……ベル様はまた綺麗と言っていただけるでしょうか……?


「(どうしよう。お姉様が自覚はないけど恋する乙女みたいな顔をしてる!)」

「ティア? 何か言った?」

「いいえ、なんでもありません。楽しそうでよかったです。そんなことよりもアインとはどうですか?」


 ティアが何かつぶやいたような気がしたけど……言いたくないならそれでいいか。


「アイン様とどうかと聞かれても、アイン様た同じクラスなのはティアでしょう? 貴女の方がよく知っているでしょうに……」

「そうじゃなくて、今日のようなデートはしないのかっていう話です」

「デ……!、今日のはデートではありません! ただの案内です!」


 デ、デートだなんてそんな……! 違います。今日は案内、ベル様にこの国を案内しただけです。


「じゃあ、どこを案内した……いやこれは藪蛇か……。んんっ、アインと同じようにお出かけしないのですか?」

「今は考えていないかな? アイン様にも相手がいるようですし、私が何かするつもりはありません」

「だからそれはっ! アイン様とは何にもありません。お姉様も知っているでしょう。シシリアが好きな人はアレなの! アインとは何もないの!」

「それは以前聞きました。けれど、私たちは貴族。自分の気持ちの前に家の事を考えます。例え本人の気持ちがアレにあるからと言って、侯爵の娘にずっと婚約者がいない訳にはいきません」


 アレの手綱を握れる人がシシリア様である以上、彼女がアレと結婚しなかったとしても、アレを相手にすると理解を示してくれる殿方……アイン様しかいないと思うのです。


「それに、私はシシリア様ならこの国をよりよくできると思いますよ? アレの相手で手一杯とおっしゃっていましたが、最悪……ねぇ」


 最悪、アレには病気になってもらえれば、シシリア様の負担が大きく減ります。未来の不安要素が少なくなります。いい事尽くめですね。


「ねぇ……ではありません。お姉様、少し過激になっていませんか?」

「そうかな? レオ兄様も言っていたし、いい案だと思ったのだけど……だめかな?」

「だめです! その首を掲げているのはとても可愛いですが、言っている事が危なすぎます! それと、レオ兄のことはあまり信用しないでください!」


 ティアとレオ兄様は私が知らないところで、何か賭けのような事をしているみたい。


 ティアはその後も散々レオ兄様を信用してはいけない理由を話してくれたけど、私が知っているレオ兄様とは全然違う。その事が羨ましくなった。

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