バッドエンド

Side:クリスティーナ

 

 今の状況に危機感を感じたクリスティーナはレオニクスに言い当てられた通り、シシリアの下へ来ていた。


「……なるほど、わかりました。が、大体貴女が悪いじゃないの」

「うっ……」

「そもそも、アイン殿下に嫌がらせのような事をするのは、まぁ仲がいいからできるのでしょう。ですが、それをリリアに言わせるのは違うでしょう」

「ううっ……だって……」


 だってそれが楽しいと思ったんだもん。こんなことになるなんて微塵も思ってなかったんだもん。


「まあ、ここに来て急に婚約者候補が出てくるとは思いませんわよね」

「そう! そうなの! あの馬鹿兄貴のせいで私たちの計画はめちゃくちゃよ!」

「その前にやらかしていたのは貴女ですけどね。あれがなければ、今頃いい勝負だったのではないですか?」

「それは言わないで」


 はぁ。わかってはいるの。お姉様が遠慮していることにもっと早く気づけば、そもそも意地悪をしなければよかったことなんて……でも……今の状況とは別じゃない。


「漫画のようにはいかないのよね。異世界のくせに」

「漫画のようにって、好きな相手には好きな人がいて、そう思っていたら好きな人は自分でした。みたいなやつですか?」

「そう!」

「……でもリリアには私とアイン殿下が仲良くしていると伝えていたのでしょう? 少し違いませんか?」

「……」


 そうだった! お姉様には新しく入ってきた女の子とアインが仲良くしていると話していたんだった。それじゃあアインの好きな相手はその子だと思ってしまう。


「目を逸らさないでください。まったく……それで? 今日はレオニクス対策ですか?」

「うん。でもゲームじゃ出てこないでしょ? だから「あら? ゲームでも出てくるわよ」はあ!?」

「むしろ知らなかったことに驚き……いえ、貴女はゲームの内容よりもリリアに夢中なのでしたわね。有名な話だったのですが、レオニクスが出てくるのはバッドエンドの時です」


 バッドエンド……確かに、あのゲームでなったことはない。というよりも――


「あのゲーム、バッドエンドなんてあるの?」

「ありますよ、1つだけ。狙ってしなければ決してならないような仕様でしたが。それは……」

「それは……?」

「それは、第一王子が馬鹿であることです」

「何よそれ、何も変わっていないじゃない」

「何を言っているんですか。一応これは育成ゲーム。どう頑張っても馬鹿のままでいるのは難しいはずなんです! わかりますか!? どれほど良さそうな選択肢を選んでも知識が増えないこの悲しみが!」


 興奮しているシシリアに少し気圧される。確かにあのゲームは選択肢の後の結果がランダムだったりする。以前はよかったけど、今回は……なんて事がざらに有る。


「失礼しました。そしてステータスが伸び切らない時、第一王子はとうとう禁句を口にします」

「禁句? そんなものあった?」

「有る人物にとっての、です。聞いたらわかると思います」

「そ、そう?」

「はい。禁句とは、『お前も姉と同じように使えない』です」

「はい?」


 いや、禁句はレオ兄のものだと分かる。けどどうしてそのセリフに……まさか、クリスティーナの為に努力したつもりで、結果にならなかったからクリスティーナが悪いってなったって事!?


「言いたいことはわかります。ですが、愛と憎しみは紙一重ということなのだと思います。……そう思うことにしました」

「……そういうことにしましょう。そこでレオニクスが登場。あのシスコン兄が2人を侮辱されて黙っているわけがない。今まではクリスティーナがいたから我慢していたけど、それもなくなった。そういうことね」

「はい。瞬く間に隣国との戦争。そして敗北。リリアは第一王子によって戦争が引き起こされると予想していましたが、あながち間違いではありません。ゲームの知識がないのに、現状だけで言い当てるあの知見は、やはり王妃に相応しいのはリリアしかいない。そう思ってしまいます」


 お姉様がそんな事を……それもだけど、やはり隣国を引き連れてくるのはレオ兄か……


「そして最後にベルフリード皇太子殿下とリリアのハッピーエンドが待っている。それがこのゲームのゲームオーバーです……って聞いていませんね」


 なにそれ! お姉様のハッピーエンド! 見たい! 聞きたい!


 結局その後、リリアのハッピーエンドについてのみの話になり、対策を考えることはなかった。

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