求めるものは

 ティアが私よりも誰かと仲良くなるのが上手いのは今に始まった事じゃない。羨ましいとは思いますがそれだけです。

 

 私もティアのようになりたいなぁ。そう思うことはおかしい事でしょうか?


 ……はぁ。そろそろ目の前の問題から目を背けるのはやめましょうか。


 私は今、ただただ面倒な問題の前に立たされています。


「おいっ、聞いているのか!」

「……何でしょうか」

「何でしょうかじゃない! これは不貞だぞ! わかっているのか!?」

「あなたは私の妹と似たようなことをしているではありませんか」

「俺はいいんだよ! 問題はお前がした事だ! 話をすり替えるな!」


 自分は良くて私は駄目。まぁ、不貞はどちらにせよ駄目な事ですが、自分は特別だから良いと思ってそうなので腹が立つ。


「そもそも、ベル……フリード皇太子殿下と出かける原因はあなたではないですか」

「なっ!? 今度は俺のせいにするつもりか!」

「俺のせいも何も、ベルフリード皇太子殿下にこの国を案内しましたか?」

「はぁ? なぜ俺がそんな事をせねばならんのだ!」

「はぁ……。しなくても提案はするべきなのです。相手は帝国の皇族。失礼がない様にするのが当たり前の事でしょう」


 あなたの存在が既に失礼ですけどね。このクラスには既にベル様がいらっしゃいます。案内をそんな事と言っているのを聞かれてしまっているのですよね。はぁ……


「だから私が先日案内したのです。あなたがそんな事をできるとは思っていませんから。だから一々文句を言いにくる前に、常識なり学力なり身につけてから話しかけてもらえますか?」

「なっ、なっ!?」

「申し訳ありません、ローズ様! ほら殿下! 帰りますよ。あなたがここにいれば国際問題に発展するのですからさっさと失せますよ」


 保護者であるキースが私に謝り、ベル様に気づいてからは顔を青くしながらアレを持ち帰る。その言い方は本当に迷惑そうだった。


 私もそうだけど、周りの人もみんなアレの扱いが雑になっているような気がします。アレの扱いに慣れてきたという事でしょうか? それとももう呆れられた?

 ……なんとなく後者の気がしますね。まぁ良いです。せっかくキースが邪魔者を連れ帰ってくれたのです。私もやれる事をしないと。


 私たちの様子を面白そうに見ていたベル様の元へ向かう。怒っている訳ではなさそうなのでよかった。


「ベルフリード皇太子殿下、我が国の第一王子、ア……レウスの失礼な態度と物言い、大変申し訳ありませんでした」


 危ない、もうすぐ名前を間違えるどころか、忘れてしまうところでした。


「ククク、いや良い。アレの存在は噂には聞いていたから問題ない。それに面白いモノを見せてもらったしな」

「笑い事ではないのですが……コホンッ、それでは不問に「それは駄目だ」……やはりダメですか?」

「ああ、一応示しをつけないといけないからな」


 今回の問題、王族と皇族のものとなってしまったので簡単に終わらせる事ができません。アレは本当に面倒事を起こしてくれます。


「それで、ベルフリード皇太子殿下は何をお求めでしょうか?」

「リリア・ローズを……と言いたい所だが、今回は国を侮辱された訳ではない。俺個人の問題として扱える。だから、俺がリリアと呼ぶ事を許可する事。そして、リリアは俺をベルと呼ぶ事。それで手を打ってやろう」

「……もし断れば」

「国としての賠償をお求めならそれでも構わないぞ?」

「……ベル様。その条件でよろしくお願いします」


 ニヤッと笑うベル様。アレが来た時から絶対こうすることを決めていたのでしょう。国と個人、私がどちらを優先するかをわかった上で必然的に私との関係を公にするために……あれ……どちらにしても私……?


 じょ、冗談ですよね。国としての賠償を求める時に私を求めるなんて……帝国には私以上の人なんてゴロゴロいるでしょうし、わざわざこの面倒臭い状況の私を求めるなんて……


「(俺は本気だぞ)」


 耳元でそっと呟かれた言葉は私の頬を染めるには充分だった。

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