友人

Side:クリスティーナ

 お姉様に現場を見られるなんてついてないなぁ〜。

 はぁ……。


「どうやらコッテリ絞られたようだね」

「アイン……様ですか。何かようですか?」

「そう邪険にしないでよ。一応私のためにやってくれているのを知っているからね。申し訳ないと思っているんだ」

「別に、アイン……様のためでは……」


 学園では一応、様付けをする。そう約束して実行しているが、慣れない。気を抜くとすぐに呼び捨てしてしまいそうになる。

 それに、本当にアインのためというわけではない。お姉様のためです。それと、少しズキズキ2人の邪魔をしてしまった罪悪感を紛れさせようとしたのですが……

 あんなに怒られるなんて……


 ため息が出そうなのを我慢し、次の一手を考える。落ち込んでばかりではいられない。


 そんな時、ズンズンとコチラに向かって来る人影が見える。


「ごきげんようアイン殿下。少し彼女をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ……」

「ありがとうございます。では失礼致します。もちろん来ていただけますよね? クリスティーナ様?」


 やって来た彼女、スフィアには何も言わせぬ気迫があった。それに押し負け、思わず「はい」と答えてしまった。


 連れてこられたのは学園に用意されているサロンの一室。部屋には誰も居らず、入ってきた私たち2人。


「それでお話とはな――」


 その先は言えなかった。頬に衝撃が走り、そのことに動転して上手く言葉が出ない。

 思わず前を見ると、私を睨みつけるように振り下ろした手を摩っているスフィアがいた。その表情はいつもとは全然違った。怒った時とも違う。どこか見下したような……違う。私が見限られたんだ。

 

 叩かれた頬がピリピリと痛むのと同時に、スフィアの目を見ていると心がズキリと痛む。


「最低ですわね。リリアお姉様を慕っているのかと思っていたのに、あんな事をするなんて……」


 お姉様? 一体何を言って……


「待って! 何を言っているの!」

「何を? そんなこともわからないんですの? 馬鹿にされたものですわね。あれだけ堂々たしていながら誰にも見られないと本当に思っていたんですの?」


 ようやくわかった。スフィアが言っているのは――


「リリアお姉様の婚約者と、見せつけるように仲良くして、貴方は何も思わないのですね」


 理解していなかった。私はお姉様とアレ、アインの事しか考えていなかった。アレの相手を公共でする事で、お姉様がどう思われるかなんて考えてなかった。


「……ごめんなさい。お姉様……私、わたし……」

「ふんっ、ようやく自分のして来た事が「私、お姉様のお手伝いがしたくて……そんなつもりは……」……何をおっしゃってるんですの」


 クリスティーナは甘やかされ続けていた。叱られた事がないわけではない。ただ前世の知識がある分、何が悪いのかは全部自己解決ができていた。だからこそ家族がクリスティーナに対して強く言うことはなかった。

 だからこそ、今回、スフィアがした行動は全てがクリスティーナにとって初めてのことである。同年代の友人に怒られることも、諭されることも今までにない経験だった。


「お姉様の婚約破棄をスムーズにしたくて……」

「婚約破棄!? 貴女、そんな事をさせようとしていたんですの!?」

「だって〜、お姉様はアレの事が嫌いだから〜」

「そうですの!?」


 クリスティーナは半泣きになりながら次々と機密情報を話す。それを聞かされるスフィアは驚きが止まらない。


「ちょっとお待ちになって……もしかして、聞いてはいけない事がありませんか?」

「……ぞうかも」

「そうかも……ではありません。そんな重要な情報、ペラペラと話さないでくださいまし」

「でも……スフィアももうお姉様の妹だから……」

「リリアお姉様の妹! コホンッ、仕方ありませんわね。敬愛するリリアお姉様のために、私もお力添え致しますわ」


 少し巻き込まれそうになった事に距離を置こうとしたけれど、残念かな、リリアの妹というエサにまんまと引っ掛かり、沼に足を突っ込むスフィア。


「話を聞かずに手を出して申し訳ありませんでしたわ」

「ううん。私もようやく自分がやっている事が周りにどう見られるか知れてよかった。ありがとう。これからもよろしくね」

「……友人として、加減はしませんわよ」

「うん。ありがとう」


 すれ違いから始まったが、2人の距離はグッと縮まった。

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