おでかけ

 ベルフリード皇太子殿下との約束の日、待ち合わせとして指定された場所へ向かう。少し早めに着くはずだったのに、彼はもうすでに待っていた。

 彼は私に気がつき、ジト目を向ける。


「……なぜ、制服なんだ?」


 私が今着ているのはベルフリード皇太子殿下が言った通り制服……本当はちゃんとしたドレスを着ていたのです。何せ相手は皇族ですから。ですが――


「お姉様、まさかその服で行くつもりですか!?」

「え? ええ、そのつもりだけど……何かおかしいかな?」

「おかしくはないよ。今日も可愛い。だからそれで行っておいで」

「レオにぃは黙って! お姉様! 制服で行きましょう! 今のお姉様とベルフリード皇太子殿下を見れば、二人の関係を勘違いして変な噂が流れるかもしれません」

 

 レオ兄様が褒めてくれるが、ティアは反対みたい。ティアの言い分もわかるけど……それはどうなのかしら?


 リリアがあまり納得いってないことに、クリスティーナは少し焦る。第一王子との関係の悪さは少しずつ知られてきている。そんな中、ベルフリード皇太子殿下とリリアが仲良くしているのを見られたら……二人を応援する人も出てくるだろう。そうなってしまえば、アインが出る幕はない。

 そこまで考えてた上で、クリスティーナは綺麗に着飾ったリリアをベルフリード皇太子殿下というよりも、周りの大衆に見せたくなかった。


「ドレスを着ていたらデートと捉えられても否定できません! 制服なら案内と言えますし、お姉様がベルフリード皇太子殿下に下心がないことを証明できます」


 確かに……それもそうですね。周りにどう思われるのかは考えていませんでした。私がベルフリード皇太子殿下に鞍替えしたと思われても大変です。制服なら……おかしいと言われることはないでしょう。


「……というわけなのですが、やはり気になりますか?」

「いや、構わない。一つだけ聞かせてもらっていいか」

「はい。なんでしょうか?」

「妹に言われたから制服にしたわけではないんだよな」


 確かにティアに言われたからというのもありますが、今後のことを考えてこの服を選択したのは紛れもない私です。


「はい。私の意志です」

「そうか、それが聞ければいい」

 

 そう言って、ベルフリード皇太子殿下は笑いながら手を差し伸べる。少し躊躇っていると、これが帝国のエスコートだと言われたら大人しく従うしかありません。彼の手を取り、今日はどこに行きたいのか尋ねる。


「そうだな。ある程度決めてきてはいる」

「そうですか。それでは早速「その前に」……?」

「まだ時間があるんだ。だからその前に寄りたいところがある。構わないか?」

「はい。私は何も問題ありませんから。殿下の好きなところに」


 すると、ベルフリード皇太子殿下はニヤリと笑う。


「周りに関係をバレたくないために制服を着てきたんだろ。それなら俺のことも殿下ではなくベルと呼ぶべきではないか?」

「それはそうですが……しかし……」


 否定する材料がないので困ってしまいます。殿下が言っていることは正しいことなのですから。


「ベ、ベル様……」

「様付けか。まあいい。それは今度の機会にするとしよう」


 今度の機会ってなんですか。こんなこと、今日だけなんですから!


 「そ、それで! ベ、ベル様はどちらに行きたいのですか?」

「ああ、そうだな。遅れるわけにはいかないし、そろそろ移動することにしよう」


 結局場所を答えてくれず、手を引かれるまま歩き始める。

 彼の顔はイタズラをする前の悪い笑顔をしている。その顔を見ていると、どこか仕方ないなぁと思ってしまっている自分に驚く。


 そして連れてこられたのは――


「あ、あのベル様? ここで何か欲しいものが?」

「いや? ここに用があるのは俺ではなくお前だ」

「そう言われましても……私には何も用事が「ないとは言わせないぞ」……はい」


 ベル様から何も言わさぬという圧がかけられ、ベル様に手を引かれながら渋々入店することになりました。

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