帰還

 食事の前に珍しく話があるということで、目の前に美味しそうな料理が並べられている中、父が話し出すのを待っていた。


「レオニクスが帰って来るみたいだ」

「えっ? レオ兄様が……ですか?」

「げっ……」


 クリスティーナがレオニクスを嫌がる理由、それは同族嫌悪である。つまり、レオニクスも極度のシスコン、それもクリスティーナと比べられないほどに過激すぎた。

 そんなレオニクスに、次期当主としてある家訓が言い渡された。それが、1人で5年間、隣国で暮らすことである。

 しかし、このような家訓などない。わざわざ5年もの間、レオニクスを家に寄せ付けないようにした理由の根源はリリアである。リリアに事あるごとに嫌がらせをして来たアレにレオニクスは不満が溜まっていた。このまま行けばアレの命がないということで家訓と称して5年間、隣国に飛ばされた訳だが……


「まだ5年経ってないのになんで帰って来るの?」

「……何か危険を感じたらしい」

「……それって、お父様達が遠ざけた意味がなかったって事でいいの?」

「ティア、遠ざけたと言わないように。あくまで家訓です」


 お母様も大概なのだけれど……、それにしてもよりによってこのタイミングで……

 いえ、少し待ってください。


「お父様、その知らせはいつ頃に?」

「? 手紙が届いたのは昨日だが」

「……その手紙にいつ帰って来るか書いていました?」

「……! いや、書いていなかったが「さすがリリ。お兄ちゃんのことをよくわかっている」……レオ!」


 私の予想通り、レオ兄様はもう既に帰って来ていました。


「リリ、綺麗になったね。会いたかったよ。ティアも会わないうちに可愛らしくなったじゃないか」

「まだ5年経ってませんけど、家を継ぐのを諦めたんですか?」

「ハハハ、まさか。そもそもあれが嘘な事ぐらいわかっているさ。それでもホイホイ海外に行ったのは僕自身が落ち着くためでもあるし……もう一つは外を見るいい機会だと思ったからさ」


 一瞬、私を見た様な……。いえ、それよりも私がアレとまだ不仲である事がバレてしまえば、今度こそレオ兄様が何をするかわかりません。しっかりと仲のいいアピールをしないと!


「あ、あのレオ兄様……」

「どうしたんだい?」


 リリアが何を言おうとしているのかすぐに察したクリスティーナは、とにかくリリアに何も言わせないことにした。

 

「お姉様! せっかくシェフが用意してくれた料理が冷めてしまいます! 早く食べましょう! レオにぃも食べないなら部屋でゆっくりしておいてください」

「それもそうだね。それなら私もいただくとしよう。話は食事中でもいいかな」


 しかし、そんなクリスティーナの作戦もサラッと受け流される。


「いや、だが、今日帰って来るとは思っていなかったからな。レオの分の料理はないんじゃないかな」

「それもそっか……しまったな。それじゃあ、すまないけどリリアの話は後でいいかい?」

「はいっ」

「じゃあ、僕は部屋で待っているよ」


 明らかにホッとしている3人と、後でしっかりと説明しなきゃと意気込んでいる1人。それぞれが顔に出さないように上手く取り繕っているが、少しの期間離れていたからといって、家族が、レオニクスが気づかないはずはなかった。


 部屋を出る扉に手をかけたところで、レオニクスが振り返る。


「そうそう、リリ。アレウスとの仲はよくなったのかい?」

「! はい! とても良くなって、今ではほぼ毎日のように話す仲です!」

「そうか、それはよかった。それでなんだが……」

「?」

「アウレウスとの仲はどうなんだい?」


 リリア以外が「やれれた!」と感じる。レオニクスがアレをアレウスと言ったとき、さすがにアレの名前を覚えていなかったことに歓喜した。それもリリアがようやく間違えて覚えた名前だったからだ。少し芝居ぽかったが、リリアも仲のいいことをアピールできていた。

 それなのに後からアレの本名を言うという事は、レオニクスは最初からわかっていたということなのだろう。


「アウレウス様とはどのような方でしょうか?」

「へぇ……」

 

 リリアが頭を傾げ、周りが頭を押さえる。1人の男の目が細まった。

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