交渉
Side:クリスティーナ
雰囲気が変わったレオニクスを見て、リリアは自分がしてしまった過ちに気づく。
「もしかして、アウレウス様はレオ兄様にとって大事な人だったのでしょうか!?」そう思っているんだろうな……お姉様は。
あわあわしているリリアの様子を見て、クリスティーナは落ち着いて分析をしていた。
「レオ兄、ちょっと話しがあるから後で部屋に行っていい?」
「勿論、ティアなら歓迎だよ」
レオ兄が部屋に戻った今でも少しソワソワしているお姉様を観察しながら夕食を済ませ、すぐにレオ兄の部屋に向かう。
「単刀直入に言います。今回は手を引いてください」
「どうしてだい? とうとうアレに情が湧気でもした?」
「そんな訳ないじゃないですか。今ここでレオ兄が暴れると困るんです」
「それはこのローズ家が? それとも王家が?」
「……」
レオニクスはわかっている。今回の騒動でリリアが第一王子を拒絶しても、多くの貴族がローズ家に賛同する。今現状、1番困窮しているのは王家だということも。
そもそも、どうして他国に行っていたレオ兄がここまでこの国の内情を知れているのかが不思議なんですよね。アレの事は攻め込まれる要因になり得るので、それほど公表されないはずなのですが……
「とにかく、お姉様の事は私に任せて「いいよ」……」
「いいと言っているのにどうしてそんなに嫌な顔をするんだい」
いま、私はすごく嫌そうな顔をしているんでしょうね。お姉様の前じゃなくてよかったです。そうじゃなくて!
「レオ兄が素直に引く訳ないじゃないですか。もしかして、お姉様の婚約者候補を隣国で見つけて来ましたか?」
「おっ、正解。さすが我が妹達、僕の事をよくわかっているね。ベルには許可をもらっているよ。あの名前を覚えられていない王子よりも彼の方が僕は安心だね」
「……お姉様が隣国に嫁ぐと容易には会えませんよ」
わかっている。そんな対策をせずにこんな事を言う人じゃない。だからこんなにも笑っている。
「もちろん、ベルにそうなった時は向こうの貴族席をもらう手筈になっているよ。ティアもわかっていただろう?」
ああ、もう。この人には前世の記憶を用いても全然敵わない。そもそも、ゲームで名前すら出て来なかった人に私が何かできるわけがなかったんだ。
レオ兄は私の将来の計画すら見越して話している。そんな兄に対して、隠し事をしながら説得できるでしょうか。
「アイン……第二王子がお姉様といい関係になれそうなんです」
「だからいいと言っているじゃないか。ティアは考えすぎだよ。でもそうだね、そこまでいうのであれば、僕はティアの作戦が全部失敗してから行動するとしよう」
これでいい。レオ兄には大人しくしてもらわないと。お姉様が隣国に行ってしまうとおいそれと会えなくなってしまう。それだけはなんとかしないと。
まったく、これも全部アインがさっさとお姉様を落としにかからないから……
アインが行動に移せなかった理由はすべて自分である事を棚に上げて、ため息をつく。
「では、レオ兄は大人しくしといてね!」
「はいはい」
「絶対、絶対だよ!」
「信頼されてないなぁ〜。大丈夫、僕は何もしないよ」
ここまで念を押せば気が変わった。なんて事を言い出すこともないでしょう。いい感じでアレを引き離して、アインとお姉様をくっつけようとしていたのに、横から掻っ攫われてなるもんか。
「ああ、そうそう、1つ伝え忘れていたんだ」
このタイミングでのレオニクスの伝え忘れ。絶対にわざとなのに、それを言わさぬ雰囲氣がある。
聞いても、聞かなくても、どちらにせよ嫌なことなのに、聞かない方が悪くなるのだからタチが悪い。
「……何でしょうか?」
「ティアと同学年で、アルベルト帝国の姫、アイリス第一皇女が留学に来るから」
「……わかりました。注意しておきます」
「よろしくね。さすがに僕でも学園には手を出せないからね」
もう何もない。そう思って部屋を出る。扉を閉め――
「ベル……ベルフリートも留学予定だから、リリにも伝えておいてね」
――た。
ドンッ。扉を殴る音が静かな屋敷に響き渡る。
そういうのはもっと早く言いなさいよ! このバカ兄貴! シスコン! 冷徹男!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます