自業自得

Side:クリスティーナ

「お姉様! どうですか?」


 クリスティーナはリリアと同じ制服を身につけ、はしゃぎ回っていた。


「クリスティーナお嬢様! 嬉しいのは分りますが、もう少し落ち着いてくださいませ」

「そんな! 一年も待ってようやくお姉様とお揃いの服を着れたのよ! もう少しだけ……」

「ダメです。皺になってしまいます。それに、クリスティーナお嬢様のもう少しは満足するまで終わらないので聞かないよう奥さまから言われております」


 お母様ったら、メイドにまでそんな事を言わないでもいいのに! それに、メリーだって私の専属なんだからもう少し私を優遇してくれてもいいじゃない!


 そう思いながらもチラリと、確実に自分の味方になってくれるであろう人物をジーと見つめる。


「うっ……メリー……もう少しだけいいんじゃないしら」

「リリアお嬢様は甘すぎです! もう少し厳しくてもよろしいかと思います」

「だって……そうね。ティア、それくらいにしてもう制服を脱いじゃいなさい」

「えっ!?」


 まさかのお姉様の裏切りに驚く。お姉様はずっと私の味方だと思っていたのに……


「そんなに制服が着たいなら私のを着ればいいわ。もう1年も経つのだし、皺も気にならないわ。メリーもそれでいいわね」

「……はい。申し訳ありません」


 なんと、お姉様の制服を貸してもらえるらしい。そうとわかれば今来ている制服を脱ぎ捨て、お姉様の出してくれた制服に身を包む。

 さっきまで着ていたのと同じはずなのに、どことなく甘い香りがする。


「……ねぇメリー、さっきまでより喜んでいるように見えるのは気のせいかしら」

「……いえ、恐らくここ最近で1番喜んでいらっしゃると思います。それに……なぜ静かになったのでしょうか」


 メリーうるさい。お姉様の制服を来て動き回ったらお姉様の匂いがとんじゃうじゃない。そんな勿体無いこと、する訳ないじゃない。


「まぁ、大人しくなったんだし、いいんじゃないかしら」

「……それもそうですね。では、私は失礼します」


 メリーが部屋から出ていくのを目で確認し、2人になった途端にソワソワしだすお姉様を堪能する。

 以前のお茶会の後と同様、今のお姉様は私に強く出れない。この状況をずっと楽しむのもいいけど、やっぱりいつものお姉様に戻ってほしい。


「それで、お姉様、この手紙の山はなんですか?」


 ビクッとわかりやすく肩を震わせるリリア。リリアが学園に行っている中、クリスティーナは度々リリアの部屋に漁り……遊びに来ていた。そこで見つけたのが、ベッドの下に隠されていた手紙の山だった。差出人は全てアインである。


「アインのこと、嫌いなんですか?」

「そういう訳じゃないの……」

「ではなぜ?」

「だって、ティアが言っていたじゃない。『今までの3人に、1人女の子も増えて仲良くやっている』って。その女の子、アイン様の事が好きだろうし……アイン様も想っていなかったらその3人に加えないでしょ?」

「…………」


 クリスティーナは1つずつリリアを言い負かすつもりだった。その一つ一つの動作を目に焼き付けよう、そんな邪な気持ちを抱いて問い詰めようとした結果がすべて身から出た錆だった。


 確かに言った。お姉様とアインの初対面の時に、アインをあわあわさせようと思って……けど、こんな展開になるなんて思っても見なかった。けど、会っているのがお姉様を傷つけたしシシリーだと知られたら、お姉さまに嫌われるかもしれない。


 クリスティーナとシシリアは同じような境遇ということもあり、あれからお互いに愛称で呼び合うぐらいの仲になっていた。


「ち、違うんです。私達4人の集まりはお姉様のための……!」


 言っていいの? お姉様の婚約破棄の為に集まっているって。それをお姉様に知られたら私を巻き込まないようにもっと自分1人でなんとかしようとするはず。それだけは避けないと。


「私の為?」

「違います! ああもう! その女の人はシシリア・ラティスです! お姉様を傷つけた人で、アレを好きな物好きです! そんな人と交流を持っていました!」


 クリスティーナは自棄になった。例え自分が嫌われても、交友関係にあれこれ言われても、リリアを1人で行動させないことを選んだ。その結果――


「リリアもシシリア様と仲良くしているの? 2人とも早く言ってくれたらいいのに……」

「えっ?」


 クリスティーナはリリアがもう既にシシリアと仲直り、それどころか未来の協力関係にある事を知らなかった。


「ご、ごめんなさい。内緒にしたくて……」


 クリスティーナは引き攣った笑顔で謝り、苦しい言い訳をする。誤魔化せたのはよかったが、内心では複雑だった。

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