不安な未来

「あれっ? これ!俺らが聞いたらまずいやつじゃね」

「そう……だよね。あまりにも普通に話しているから思わず聞いちゃっていたけど、まずいよね」


 周りにいる方々が私達が話している事が重要事項だということに気づいたらしい。心配しているのは男爵家や子爵家の方。伯爵家以上の方は思案顔をしている。これからのことでどう身を振るべきか考えているのでしょう。


「……私は第一王子との婚約を白紙、それでなくても破棄するつもりです」

「「「「「……ッ」」」」」


 周りが少しざわつく。嫌いだとは言っていたらしいけど、こうやって堂々と公言するのは初めてだからでしょうか。


「ですが、恐らくそれを拒む者がいるでしょう。アレを傀儡としたい者。いえ、アレ自身も王位継承権が下がると言われれば抵抗するかもしれません」

「あ、あの……」


 1人の女の子がおずおずと手を上げる。


「なんでしょうか?」

「先程の話し……白紙にしてから殿下に言うわけにはいかないのでしょうか?」


 当然ですね。私も出来るのであればそうしたいです。


「私もそう思います。ですが、それはできません」

「それは何故でしょうか?」

「不安材料が残り過ぎるからです。1番マシなのが、アレを傀儡にしたい貴族達を集めての反乱になる、でしょうか。不当だと、騙されたんだと癇癪を起こしたように暴れだすでしょう。そうなれば、被害が出るのは民たちです」

「……それで1番マシなら、酷い時はどうなるのですか?」


 ラティス様が訪ねてくる。周りの方達もコクコクと頷いていることから気になっているのでしょう。


 そうですね。これからアレの手綱を握るものとして、危険性を自覚してもらった方が良いですからね。


「……ラティス様は何が起こると思います?」

「意地悪しないでください……ですが、思いつくのは国民に八つ当たりをすること、それしか思いつきませんでした。あとは、ローズ様が先程言った事と同じです」

「まぁ、それがわかっていればいいでしょう。最悪の場合、起こるのは戦争です」


 リリアの戦争という言葉に、多くの者が固唾を呑んだ。アレの存在が、そこまで大きくなるとは思っていなかったからだ。


「お言葉ですが、それは難しいと思います」


 誰が言ったか……いえ、そんなものはどうでもいいですね。今は話し合いの場。私の知識だけではムラがあるかもしれません。他の人の意見はどんな事でも参考になります。

 

「理由を聞かせてもらってもよろしいかしら?」

「殿下にそこまでの影響がないからです。質問を返しますが、ローズ様はどうして他国が殿下に力を貸すとお思いになったのですか?」

「私もアレに他国が力を貸すとは思っていませんよ」


 アレを他国に取り入れるメリットが何もありません。それどころか、何も考えず今と同等の地位を他国に求めるでしょう。そんなアレに手を貸すような国があるとは思いません。

 

「ならっ!」

「しかし、アレはこの国に攻め込む理由をくれたのです。アレに感謝して、嬉々として攻め込んでくるでしょう」


 教室が静寂に包まれる。その瞬間に、授業を開始する鐘が鳴るが、誰もその場を動けないでいた。それは生徒だけでなく、いつの間にか教室に入って来ていた教師も同じだった。


 そんな空気を打ち破るように、リリアが明るく話し始める。


「あくまでそれは最悪の状態です。そうならないために、行動は慎重にしなくてはなりません。そして幸いな事に、アレの手綱を握りたいというモノ好きもいました」

「モノ好きでは……いいえ、なんでもありませんわ」

「ふふっ、ありがとうございます。……恐らく、来年にはこの状況は大きく動くと思います。もし何あれば……その時は協力してくれたら嬉しいです」


「はっ!」

「もちろんですわ」


 リリアの言葉に、クラスを代表するかのようにキースとシシリア、2人が返事をする。その後を追随する様に賛同する声が聞こえ始める。


 来年、ティアが学園に入学したらアレの抑えが本当に効かなくなると思う。それに、ティアもなんだか私の知らないところで動いていそう。いや、動いていると確信できるからこそ、用心するに越した事はありません。


 ティアに甘えてばかりでもいられません。私も自分の力でできる事はしないと。

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