事実

「私が王妃に? 絶対に無理です! むしろ嫌です!」


 ラティス様に王妃になりたいか、そう尋ねた結果がこの返答である。王妃になるのが嫌だと言われたのは初めてです。才能はあると思うのですが……。


「というか、ローズ様、そんなに怒っていたのですか? あの時は本当にごめんなさい。だから許してください!」

「いえ、あの時の事はもういいのですが……どうして怒っていると思ったのですか?」

「だって、殿下に加えて民のお世話までしていたら過労死してしまいます!」

「お世話……殿下よりは民の方が話を聞いてくれますよ?」

「それはそうなのですが……」


 彼女と私では琴線に触れるもの……価値観というものが違うのでしょうね。しかし……


「アレとの婚約を望むのであれば、王妃になるのは絶対条件では?」

「だから、アイン様と早く……はっ!?」


 周りに人がいる事を忘れてとんでもない事を言おうとしたラティス様。まぁ、忘れていたのは私もなので、人の事を言えませんが……

 しかし、少し納得した部分もあります。彼女と初めて会った日、私がアレを毛嫌いしている事をわかっている口ぶりでした。その事が今まで不思議だったのです。


「なるほど。ようやく納得しました。ティアが私の事を話していたのですね」

「そうなのですが、ローズ様が殿下を嫌っているのは言われる前からわかっていましたよ?」

「そんな訳はありません。私は完璧に演じていたはずです。ねぇ、みなさ……」


 そこまで言いかけて止まる。だってみんな私と目を合わせようとしないんだもの。さっきまで私を心配してくれていた方もですよ!?


「……そんなに、わかりやすかったですか?」

「その……、正直に言いますと、かなり……」

「そうですか……やはり叩きつけたのはダメでしたか」


 リリアは知らない。2年間、クリスティーナによって散々内心を吐露され続けてきた結果、内心では我慢と思っていても、アレの事に関するとその抑制は効かなくなっている事に……


 リリアの言葉に「そこじゃない!」と誰もがそう言いたくなった。が、言えない。そんなジレンマを抱えていた。ただ1人を除いて……


「そもそも初日から嫌いだと言っていたではありませんか」

「そんな事あるわけないじゃないですか。一応ですが、アレは王族。最低限の礼儀は持ち合わせているつもりです。ねぇ、みなさ……」


 先程と同様に皆一斉に目を逸らす。誰も私を見ようとしない状況に愕然としてしまう。もしかして、私、初日からやらかしてしまっていたのでは……!?


「……そんな事ないですわよね。ねっ、キース!」

「そこで、私ですか!?」


 なんですか、その巻き込んで欲しくなかったと言いたげな態度は……


「……何か……問題が?」

「怖いですよ! そもそも、私に聞かなくても周りの態度で貴方様ならわかっておられるでしょ!?」

「知りませんし、わかりませんわ!」

「現実逃避しないでください。はぁ……。では言いますが、初日から公言なされていたので、愚か者達は舞い上がり、賢い者たちは不安がっていましたよ」


 諦めたのか、渋々とキースが話し始める。愚か者は……まぁ、なんとなくわかります。ですが、私とアレの仲が良くないことで不安ですか……?


「わかっていないようですが、未来の陛下がアレだという事を前提にしておいてくださいね。今までアレの顔が聞いていたのは、ひとえに貴方様のおかげなのですから」

「えっ? でもそれは、アレが王族だから……」

「違います。アレを制御、もしくは居なくても国を運営出来るのが貴方だと、そうわかっている者はちゃんといます。だからこそ、アレが馬鹿なことを言い出した時には多くの貴族も反対しました。貴方様以外の人が王妃として、アレを抱えたまま成り立つとは思って居なかったからです」


 王妃様は自分が婚約の白紙を渋ったと、そう言っていた。だけど、キースが言うには多くの貴族も反対していた?


 ……まったく、王妃様も自分で抱え過ぎですよ。

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