シシリア・ラティス

 ラティス様の告白、たじろぐアレ。唐突に始まった茶番に巻き込まれた私は2人の行く末を見届けさせられる事になりました。


「殿下は殿下の好きな人がどういう方なのか、まったく理解しておられません」

「なっ、なんだと! お前に「わかります」……ッ」

「わかります。ローズ様に嫌がらせをしている時点で殿下が好かれる事は一生! ありませんわ」


 シシリアは「一生」という言葉を強調する。


「……なぜだ」

「例えばですが、アイン様が陰口を叩かれたとして「誰だソイツは!」……例えばです。ですが、今のように殿下は怒りますよね?」

「当たり前だ!」

「それは貴方の想い人も同じなのです」

「どういう事だ?」

「…………殿下がローズ様に嫌がらせをする度に、想い人の殿下に対する印象が下がると言う事です」


 もう既に最底辺ですし、まだまだ下がりそうですけど……。それにしても、まだわかっていないような……


「なぜだ! いや、わかったぞ! その女の嫌がらせだろう!」


 リリアの予想通り、アレにとってなぜ自分の評価が下がるのかわかっていなかった。そもそも、彼は自分の言っていることは全て正しいと思っている。つまり、自分が悪いという発想は何一つない。

 ゆえに、クリスティーナに悪評が行くという話をしても、それはリリアの嫌がらせだとしか考えなかった。


 流石にこれは……ラティス様も呆れたのではないでしょうか。


 彼女に目を向けると、わなわなと身をふるわせているように見える。その顔は怒り……ではなく高揚だった。


「えっ?」


 思わず声が漏れる。彼女の予想していなかった表情に、困惑しか残らない。


「ああ、自分に置き換えたら流石に分かると思っていたのに、こうまでして話を砕いても理解できませんのね。ハァハァ……。いいですわ。その愚かっぷり、最高です。今までのダメ男以上の逸材。甘やかしに甘やかされ続けた、生きている価値もないもはやゴミ同然の最高権力者……最高です。ハァハァ……」


 うわぁ……。思わず一歩、さらに一歩下がってしまう。

 聞きたくなかった。少し自分本位な所はありますが、まだ話せる人だと思っていたのに……


 小声なのが幸いしたのか、大半の人には聞こえていない。ただ、極小数の彼女の側に居た人達が一斉に彼女から距離を取る。そして、最も彼女に近かったキースが頭を押さえていた。つまり、平常だという事でしょう。


「コホンッ、まぁそれで良いです。今のままでは殿下は一生振り向かれる事はありません」

「それは全部アイツのせいだろう!」

「コイツ……ンッ……いいえ、殿下、逆なのです」


 ラティス様は殿下のこと全てが好きなのだと思っていましたが、そういう訳ではないみたいです。ますますラティス様の事がわからなくなる。


「逆だと?」

「はい。ローズ様が殿下のことを素晴らしいと思えば、それは家でも話されるでしょう。そうなると、必然的に想い人の耳にも入るということです」

「そうか! おい、お前! 家で俺のことを褒めろ!」


 何を褒めろと? 褒めるところなんて一切ないじゃないですか。


「殿下、それでは殿下の外部的なことしか伝わりませんよ」

「むっ? ならどうすれば」

「一週間、じっくり殿下のいいところ、彼女に伝えたい事を考えましょう。大丈夫です。私が着いてます」


 それってつまり、一週間後に私が聞かされるという事ですか? ……それでも毎日突撃されるより一週間後の方がマシでしょうか……。

 むぅ。悩みどころですね。

 

「私は殿下の事を愛しています。それはまごう事なき事実です。私が殿下のいい所をいっぱい知っています。だから、詰まったら私の名前を読んでください。シシリアと……」

「シシリア……」

「はい! では一週間、殿下の想い人に伝えたい殿下のいい所を一緒に考えましょうね」

「ああ!」

「あっ、もう時間ですね。殿下も教室に戻らないと……」

「そうだな。助かったシシリア。また次も頼むぞ」

「はい! お任せください」


 殿下が大人しく返った事にホッとするが、それ以上に目の前の人物に恐怖を抱く。アレを完全に手中に収めていました。おそらく、それは王妃様ですらできていなかった事。

 彼女なら私以上に王妃に相応しいのかもしれません。

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