茶番

「ローズ様、今お時間が……な、なんですの!?」


 ラティス様が私に話しかけに来ようとした時、クラスにいるほとんどの方が私とラティス様の間に割って入り、壁を作る。もう彼女の姿が目視出来なくなった。


「き、キース! お願い。ローズ様と話をさせて!」


 この状況に困り果てたラティス様がキースに呼びかける。あれ? キースとはあの時から知り合いだったのでしょうか? そんな疑問は当然、私だけのはずもなく……


「以前から知り合いってこと?」

「嘘だろ。まさか前のあれもローズ様のお願いを無視してすぐに出したんじゃ……」


 どこからともなく、キースに疑いの声が上がるが、どれも笑い声を我慢したような声である。

 

「そんなことしてねぇよ! お前も! 俺の名前を出す状況を考えろ! 後で個人的に連絡を取れる方法もあるだろうが!?」


 キースが否定してすぐ、クラスメイト達はキースから目をそらす。このクラスにキースを疑っているものなどいません。こんな冗談ですら連携が取れる。これも皆キースのおかげなのですから。

 さて、私もラティス様の話を聞くとしましょうか。

 

「皆さんありがとうございます。私は大丈夫です。……それで? ラティス様は何のご要件でしょうか?」

「あの! 以前のことを謝りたく……それと「貴様どういうことだ!」……はぁ。……馬鹿で可愛いですが、もう少し空気を読めるようにしないといけないわね」


 毎度の事ながら乱入してくるアレ。毎回毎回クラスも違うのにご苦労なことです。それにしても、今ボソリとラティス様が何を言ったのかが気になります。


「おいっ! 話を聞いているのか!」


  ラティス様の事を考えていると、何か言っていたらしいアレが聞いているのかと確認してくる。話にならないのに聞いても時間の無駄なのですが……仕方ありません。

 

「あっ、聞いていませんでした。それでご要件は?」

「チッ、お前! 俺のクラスメイトにも何か言っただろう!」

「はぁ……?」


 リリアは何を言われたのか理解できなかった。それもそのはず、リリアには3組の知り合いは1人も居ない。そもそも、そこに地雷原があるのに踏み込む愚かな者は居ない。


「どういう意味でしょうか?」

「とぼけるな! 以前までは言うことを聞いていた奴が突然言うことを聞かなくなったんだ! お前のせい以外にある訳ないだろ!」


 つまり、以前まではギリギリ王族として扱われていましたが、もうそれすらも無くなったと……。それもそうですよね。以前の失態は学園中に広まってしまいました。彼らもこのままアレと一緒にいれば、自分達が切られるだけとわかったのでしょう。


 チラリと廊下を見れば、女の子達がペコペコと申し訳なさそうに頭を下げている。あの子たちも大変ですね。後で甘いものなどをあげてフォローしてあげないと、ストレスで今度は彼女たちが辛くなるでしょう。

 

 さてと、それは後で考えるとして、今は目の前のことを処理しないといけませんね。そう思っていると、横からアレを呼ぶ声が聞こえる。


「殿下!」

「なんだ! お前には……「私、殿下のことを愛しています!」……な、何だ急に」


 なんですか急に……ラティス様のこの状況での告白もよく分かりませんが、アレの照れ顔もなんだか気持ち悪い。


「私はシシリア・ラティスと申します。以前から殿下の事をお慕いしておりました」

「そ、そうか。だが、俺には「存じております」……」

「存じていますが、私はこの気持ちに蓋をしたくないのです。この気持ち、殿下ならわかっていただけますよね。だって、殿下の相手もまた、叶わない恋なのですから……」


 悲しそうに顔を俯かせるシシリア。その様子はとても庇護欲を誘う。アレもその例外ではなく、あたふたとしている。


 なんなのですか、この茶番……


 唐突に始まったこの茶番に、当事者として強制的に参加させられたリリアは誰にも気を使わず、大きくため息を吐いたが、誰も嗜める者などおらず、ただ同情的な視線を向けるだけだった。

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