心配
「お嬢様! お屋敷にお戻りください」
「でもっ……、だって……」
「だって……ではありません。クリスティーナお嬢様にはドルン様がいらっしゃいますし、大丈夫です。それよりも早くお戻りください」
ロイ・ドルン。ティアの婚約者筆頭と言われていますが、実際はちゃんと婚約を結んでいます。ティアに婚約者がいればアレが何を仕出かすかわからないため、公には婚約者筆頭という扱いになっています。その事に対して申し訳ない気持ちはあります。
ですが……
「ドルン様は騎士の家系じゃない。それも護衛騎士……、まさか!? その伝手で会いに来てるかも!?」
「あっ! お嬢様帰って来ましたよ」
そんな心配をしていると、アンが大きな声を出して指を指す。その先にはドルン伯爵の馬車が見えた。
「ただいま戻りました。それでお姉様はどうして屋敷の外にいたのですか?」
「そんな事はどうでもいいの。それよりもティアは大丈夫だった?」
「? 何もありませんが、何かあった……また逃げ出したのですか」
察しのいいティアは私が何も言わずともアレ関係だとわかったみたい。
「会ってないのならいいの。ドルン様も申し訳ありません」
ドルン様に謝罪すると、彼はぎこちなく「構いません」とだけ言って目線を逸らす。その様子を不審に思っていると隣からクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「実は私……王族の方と会っていましたの」
「えっ……?」
「ゴホッゴホッ」
何かの冗談だと思った。それなのにドルン様の反応を見ると嘘ではないらしい……。
「……ッ……。そんな……。何もされなかった!? 大丈夫? 触られてない?」
「……お姉様は私が逢い引きしたと思わないの?」
「えっ? したいの?」
「絶対に嫌です!」
おかしな事を聞くティアにアレと付き合いたいのかと聞くと、勢いよく否定する。
「これが……」
「なに他人事のようにしているんですか。貴方という人が居ながらティアに会わせるなんて……、これからは貴方の家には行かせません。この家に来る時はお父様に許可をとってから来てくださいね。では失礼します。さぁティア、行きましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください」
ロイが慌てたようにリリアに対し待ったをかけるが、リリアは止まろうとしない。その時のリリアの心情は、「前にも似たような事を言われたな〜。だけど知らない。守るって言ったから信用してたのに」である。
スタスタと進もうとするリリアの足をクリスティーナが呼び止める。
「お姉様、お姉様」
「なぁに?」
「王族と言ってもアレとは違うよ?」
「えっ?」
アレとは違う王族……陛下?
「今お姉様、陛下って思ったでしょ。残念! 正解はアイン様です!」
アイン様……? 聞き覚えのない名前に少し困惑してしまう。
――もしかしてティアは騙されているんじゃ!?
「騙されていませんからね!? アイン様はこの国の第二王子で、私やロイと同じ歳で、ロイの主人なんです!」
ティアを信じていない訳ではない、断じて信じていない訳ではないが、一応、念のためにドイル様を睨みつけるように見る。すると彼はコクコクと頷いた。
アレの弟が第二王子ということは、アレが第一王子という事になる。今すぐに誰かに嘘だと言ってほしい。
私の婚約者であるアレが第一王子だったという驚愕的な真実を間接的に聞かされた所で、話は元に戻る。
「つまり、ティアは第二王子であるアイン様と会っていたと……」
アイン様が信用できるかはわかりませんが、ティアが大丈夫というのなら大丈夫と思うしかありません。今はアレと合わなければ実害にはならないでしょう。
「仲は良くないのよね?」
「そうみたいですね。アインは心底軽蔑しているみたいですし」
それなら一安心。弟経由でティアに近づくなんて事にはならないでしょう。ただし、弟について来たと言って来る可能性もある。油断はできません。
「……ドルン様、わかっていますね」
「わかってます。それにアイン様もそのようなヘマはしません」
「…………わかりました。信用します。ティアも過信し過ぎずに警戒するのよ」
「はーい」
本当にわかっているのかわからない返事に少し呆れながらも、楽しそうに笑っているティアを見て安心する。
私のせいで好きな人と一緒にいられる時間が少なくなっている事を心配していただけに、2人が仲良くしている様子を見る事ができてよかった。
――後は空気の読めない愚か者が居なくなれば全てが上手くいくのに……
「勝手に婚約破棄してくれればいいのですけれどね……」
思わず声に出してしまった私の呟きに対して、誰も反応しなかった事にホッとした。
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