ゲーム

Side:クリスティーナ

 「お姉様は不注意過ぎるのです。私だけでなく、自分も注意した方がいいと思います! そんな所が可愛いんですけど!」


 ベッドの上に横になり、足をパタパタさせているのはクリスティーナだ。リリアは聞かれていないと思っていたが、クリスティーナにはバッチリ聞こえていた。いや、聞いていたという方が正しいだろう。


 リリアはまだ気づいていないが、時々クリスティーナはリリアに対して能力を使っている。ポロッと本音が出るのはその影響だろう。あくまで屋敷での話だが。


「この世界に来て一番良かったのはお姉様がいる事よね」

 

 クリスティーナはベッドの上でゴロゴロしながらこの世界の事を思い出す。


 この世界は乙女ゲームの世界ではない。それに近いがここは育成ゲームの世界。ゲームのタイトルは『突き進め! ダメ王子』だったと記憶している。


 今思えばどうしてこんなタイトルのゲームをプレイしたのかと思ってしまうが、それはアップで映っている男の後ろに儚げな顔をしているリリアの顔に惹かれたからとしか言えないだろう。


「あのパッケージからしてお姉様はいい役でないことなんてわかっていたのにね」


 それでも実際に遊んでいたのだから仕方がない。けれどやって後悔した。このゲームはクリスティーナを操作する。いや、クリスティーナとなって馬鹿王子を煽て、勉強や運動をさせるゲームだった。

 しかし、なぜかその途中途中にリリアを罵倒する会話が含まれている。ゲーム内でもクリスティーナとリリアの中は最初は悪くはなかった。


 ゲームの中でのクリスティーナは、婚約者であるリリアでなく、自分が王子と一緒にいることに罪悪感を感じていた。リリアはクリスティーナが罪悪感を持っているのは気づいていたが、王子とは離れようとしないために本当はどう思っているかが分からなかった。

 ただ馬鹿王子の罵倒を聞きくのに疲れたリリアは王子だけでなく、そのままクリスティーナとも距離を取った。そしてその距離は最後まで縮まる事はなかった。


 リリアの声を聞くためにあの男をどれだけ育てたか。何度リリアと幸せになるルートを探したか。結局あの男がリリアを認める事はなかった。

 自分ができない事を全てリリアのせいにして、リリアのお陰でできた事は全て自分の手柄にする。そんな男を育てないといけないという苛立ちに苛まれながらもゲームを続けていたらこの世界に来ていた。


 この世界に来て、現実であの男を相手にした時はただただ面倒な相手に思えた。それだけじゃない。お姉様を罵倒するのが心底許せなかった。


 あのゲームではなんだかんだクリスティーナが第一王子と一緒にいる理由がわからなかった。けれど、私がクリスティーナとなった事で分かったことがある。それはクリスティーナの能力のせいだと思った。


 リリアは溜め込みすぎる。きっと第一王子に対しての黒い感情が、クリスティーナにとっても辛いものだったのだろう。それに対して、第一王子は良くも悪くも裏表がない。そんな場所が心地よかったのではないかと思う。


 私は絶対に嫌だけどね!


 最初から最後まで、ゲームの中でのリリアは幸せじゃなかった。今は……私の前では、お姉様に幸せになってもらいたい。あのゲームではできなかった事を私がしてあげたい。お姉様に笑顔でいてほしい。


 すっかり暗くなった外を確認して、クリスティーナは自分の部屋を出る。向かう先はもちろんリリアの部屋だ。

 音を鳴らさないように慎重に扉を開け、リリアが寝ているベッドの布団の中に潜り込む。この場所がクリスティーナにとっての癒しの場所だった。


「お姉様、大好きです。これからもずっと……」


 大好きな姉の匂いに全身を包まれて、少女は静かにスゥスゥと寝息を立て始めた。

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