第二王子
Side:クリスティーナ
「――という事で失敗したよ」
飄々と悪びれる事無く失敗したと告げる男。そんな男に目の前の少女が食ってかかる。
「何が、「という事で失敗したよ」ですか! 本当にやる気あります?」
「無茶を言わないでくれよ。僕だって君と同じでまだ学園に行けないんだ。実行しただけでも褒めて欲しいね」
「そこは王族の伝手でもなんでも使えばいいじゃないですか」
「バカを言わないでくれよ。そんな事をしたらアレと同じになるじゃないか」
今、クリスティーナの目の前にいるのはこの国の第二王子、アイン。アレとは違って優秀であり、多くの貴族は彼を支持している。
それと同時にクリスティーナは彼を少し苦手としていた。その理由は2つ。1つは、クリスティーナの能力が彼には効きづらいこと。心の奥底を聞こうとしても先ほどのようにかわされてしまう。もう1つはまだ確信を持てていないがおそらく……。
そんな私たちがどうして会っているのか。それは私の婚約者、いや婚約者筆頭が彼の補佐をする役割を持っていたからだった。
「ティア、あまり殿下に無理を言わないでくれ」
「ロイは黙ってて。そもそも私たちが婚約を公にできない理由もお姉様が傷ついている理由も全部アレのせいなんだから。その弟に尻拭いしてもらったっていいじゃない」
「はいはい。だから大人しく従っているじゃないか」
「……そのままお姉様も欲しいのでしょう?」
「ぶっ!」
ゴホゴホと咳き込む第二王子。王族の癖に口に含んだものを出すなんて汚い。……やっぱり、彼を苦手とする理由はお姉様を思う気持ちが私と一緒だからだと確信する。
「君……絶対わざとだろう」
「……さぁ? なんのことでしょうか?」
「はぁ……、まあいいや。そうだよ。アレには勿体なさすぎる。アレは君にご執心みたいだしね。僕が奪い去ってもいいでしょ」
「いいですが、私たち家族は王族にいい感情を持ってないですらね。マイナスからのスタート、頑張ってください」
「……手伝ってくれたりは……」
「しません」
個人的にはアレよりアインの方がずっとマシですが、アレをどうにかしない限りは手を貸すつもりはありません。
「わかった。とりあえず話を戻そうか。僕がラティス家に頼んだのは現状の把握だね。兄の名前を出してもわざとかと思いたくなるくらい気づかなかったようだ」
「それは私たちの家でも把握しています。陛下の名前や隣国の王太子の名前もわかっているのに、アレの名前だけ出て来ませんでしたから」
「……ちなみに僕の名前は?」
「……アレが第何王子かすらわかっていませんでしたよ?」
「………………そうか」
話題に出たことがない事を伝えるよりは遠回しに伝える方がいいと思っていたのだけど、想像以上にショックを受けているアインに罪悪感を覚える。
「……ティア」
「……今回のことに関してはごめんなさい」
ロイにジト目で見られて素直に謝る。まだ立ち直れそうにないアインを横目に、少しだけアインの事をお姉様に話してあげてもいいかなと思った。
「……ロイ、もっと君の婚約者に強く言ってやってくれ」
「……無理ですよ。そんな事をすれば捨てられてしまいます」
小声で話しているつもりだろうけど、丸聞こえよ。それに捨てないわよ! 私をなんだと思っているの……。
ロイがそう思うのにも理由がある。クリスティーナはロイに対して、1番は姉であるリリアだと言っているからである。リリアがこの国からいなくなるなら私もいなくなるとも言っていた。
クリスティーナも1番はリリアであることは変わらない。ただ、ロイの本心が本当にクリスティーナを大切にしてくれるということが分かり、2番目ならあげてもいいと思っていた。
アインは、ロイがリリアに何かしない限りは捨てられることはないだろうと確信しているのだが、そうとは知らないのは本人だけである。
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