迷惑に決まっているではありませんか
「少しお時間よろしいでしょうか?」
「あなたは――」
話しかけて来たのはラティス侯爵家の長女であるシシリア様。彼女は私が居なければアレの婚約者になっていたであろう人です。
話すために2人で来たのは学園に用意されてる貴族用の教室。勉学ではなく、相談事を他の人に聞かれないようにと配慮された部屋です。
「それで……、お話とはなんでしょうか、ラティス様?」
「話なんてアウレウス様の事に決まっているでしょう。あなたは何を考えているのですか?」
てっきりアレの話だと思ったのに、彼女の口から出てきた名前は私の知らない人だった。
「? 人違いではないでしょうか? 私の知人にアウレウスという方はいませんが……」
「何をおっしゃって……! いえ、ではローズ様、殿下との婚約をどのようにお考えですか? 迷惑……そう思っていませんか?」
どうしてそれを! 心ではそう思っても顔には出さない。私がそう考えていると知られると、彼女から王族に話がいく可能性がある。そうなると、婚約に否定気味なのは私の方になってしまう。
そのために私が行える選択は取り繕うしかない。
「……どうしてそう思われたのかは分かりませんが、そんな事はありませんわ」
「……今更そんな事を言われましても……いいえ! ローズ様は殿下の事をなんとも思っていないはずです!」
最初にボソリと何かを言った気がしますが、まあいいです。彼女は私がアレに興味が微塵もない事に確信を持っているみたいですし、誤魔化すのは難しそうです。
しかし、どうして私が言い訳のような事をしないといけないのでしょうか。そう思うと、なんだか無性に腹が立ってきました。
「思っていなかったらなんなのですか? 貴方に私の何がわかるとでも? それとも貴方が代わってくれるのですか? それなら喜んで代わりましょう。……ですがダメなのです。これは陛下が決めた婚約、貴方が何を言おうと私がどれだけ否定しても覆ることのない決定なのです」
ただ1人を除いては……。殿下であればそれほど問題なく破棄できるでしょう。それを望んでいるみたいですし、私としても早くしてくれると嬉しいのですけれどね。
「ですが! それにしても態度というものが……!」
「ではラティス様は、謂れのないことを言われ続けても受け入れろと? 自分の頭の悪さを人のせいにされて謝れと? すごい忠誠心ですね。私にはできそうにもありません」
「そういうわけでは!」
「ではどういう訳ですか? 早く要件を言ってくださいませ」
黙り込むラティス様を見て、要件は婚約を代われだったり、せめて対応の改善といったところでしょうか。ホント、言うだけの人は楽でいいですね。羨ましい限りです。
「要件もないようなので失礼します」
お辞儀をして部屋から出る。後ろで「待って!」と言う声が聞こえるが、もう十分に待ったと思うので気にしない事にしました。
リリアは他の人に八つ当たりしないために、扉の前で心を落ち着かせる。そして扉を開けた先には、リリアのクラスメイトが集まっていた。
「あら? 皆様どうしたのですか?」
「! ローズ様大丈夫でしたか!?」
「大丈夫ですが……何かあったのですか?」
「い、いえ……ローズ様がラティス様に連れていかれるのを見たって子がいて……だから、気になって……」
「ありがとうございます。ですが心配はいりません。話し合いは円満に終わりましたわ」
リリアの言葉にこの場に居るものは皆、嘘だと思っただろう。その証拠に扉を開ける力と無理やり押し込もうとしている力がせめぎ合い、ガタガタという音がリリアの後ろから鳴り続けている。
誰もがその事に触れたいのに、リリアの有無を言わさぬ笑顔によって何も言えなくなっていた。
「なにか?」
「いいえ、なんにもありません!」
「……そう。それなら良かったです。あっ! キース様」
「はいっ!」
「騎士団長の息子が何に怯えているのですか……。まあいいです。ここを……そうですね。10分くらい抑えて貰ってもいいですか?」
「はっ!」
今度は勢いよく返事をする彼。一体私をなんだと思っているのでしょうか。そんなことよりも、この場は彼に任せて今のうちに帰るとしましょう。
リリアが立ち去ってからきっちりと10分が経ち、扉が開けられる。
「ほんとに10分も閉めることないじゃない!」
「うるさい。ローズ様を怒らせたお前が悪い」
リリアは知らなかったであろうが、2人はある共通点によって知り合いだった。
「あーあ、怒られちゃう」
「ただ怒らせただけなのか?」
「ううん。殿下の名前を行っても気づいていなかった。あれは本気。たぶん、殿下の名前も何番目の王子かも分かっていないと思う」
「そうか……」
2人は歩きながら今日の出来事を事細かにしていく。主にちゃんとした情報を渡すために……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます