暴かれた隠し事

 夕食の時間、他の家は知らないが私たちは揃って食べることが多い。そして、いつもは和気藹々と今日あったことなどを話すのだが、にこやかにしているのは妹ただ一人であり、お父様もお母様も皆空気が重い。


 一通りの食事を終えても誰も席を立たない。この重苦しい空気の中、父が口を開ける。


「リリ、今の婚約は嫌なのかい?」


 ティアが言ったのだろう。横を見ると、目があった瞬間に逸らされた。


「……嫌です。ですが、私の役割はわかっているつもりです。私情を挟むつもりはありません」


 私の回答が気に入らなかっだのだろう。ティアが頬を膨らませる。


「アン! お姉様の今の状況を話して!」

「アン! 黙りなさい!」


 ティアがアンに命令をするが、直ぐにアンに命令する。アンは私専属の侍女なので、命令権はティアよりも私の方が高い。

 これでアンの命令権は私に移った。アンにはいつも愚痴を言っているもの。ここで話されたら問題になってしまう。そんな思いで口止めをしたのに、予想外の所から踏みにじられた。


「アン。話してちょうだい」

「お母様!」

「私たちには聞く責務があります。あなた一人に抱え込ませるつもりはありません。と言っても、この五年間、気づいてあげれなかったのだから信じられないわよね」

「……お母様」


 気にかけてくれていた事は知っている。常に辛くないか聞いてはもらっていた。けれど、それを受け入れなかったのは私であって、お母様に悲しげな顔をさせるつもりなんてなかったのに。


「95回……奥様はこの数字が何を指しているかわかりますか?」

「……いいえ、わからないわ」

「お嬢様が私の前で殿下に『私はお前の事が嫌いだ』と言われた回数です」

「「「なっ!?」」」


 私だって驚きです。アンがそんな数を数えていただなんて。


「王城でも会っていますので、本当はもっと言われていることでしょう。ですが、お嬢様が婚約を辞退すれば、クリスティーナ様にお話が回ってきます。ですので、お嬢様はずっと我慢なされていました」

「待て、どうしてティアに話が行く」

「公爵家から辞退するのであれば、それ相応の代償が要ります。そして、殿下の想い人はクリスティーナ様です。なので、そちらに話が行くはずとお嬢様はおっしゃっていました」


 そう。私が嫌いなら婚約を白紙に戻せばいい。それをしないということは、私からさせたいのだろう。そしてあわよくばその妹に……ほんと、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのでしょうか。


「それならっ! お姉様はを私のためにあんな罵倒を受け続けているのですか!?」

「ティアだって嫌でしょう? アレ。もしかしたらティアには優しいかもしれないけど」

「嫌です。お姉様にあんな事を言うってことはあれが本性でしょうから。ですが……」

「だから、言いたくなかったのに……、ほらおいで」


 ティアが抱きついたのを確認して、ゆっくりと頭を撫でる。


「あなたはあなたの好きなようにすればいいの。自分のせいだと思わなくていいの。あなたが嫌だというのであれば、我慢する必要はないの」

「ですが……! それではお姉様が」

「私はいいのよ。もう慣れちゃった。だからね。気にしないで?」

「そんな……そんなこと言わないでください! お姉ざま!」


 泣いちゃって可愛いな。ティアは頭は悪くないけれど、悪意に弱い。それにティアの能力で、隠している悪意をより感じるでしょうから余計にダメ。暗殺の防止にはなるかもしれないけれど、王城で生きて行くには難しいと思う。


「感動のところ申し訳ありませんが、もう一つ重大な問題があります」

「アン。もうないでしょ。あの数は驚いたけど、もう隠し事はないわよ?」

「いいえ、お嬢様は無意識でしょうがいい機会です。この場で試させてください」


 アンが何を言っているかはわからない。けど、お父様とお母様が許可を出したのだから仕方がない。覚悟を決めてアンに向き合った。


「ではお嬢様。質問です。殿下のお名前は?」

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