【完結】シスコン妹は大好きな姉のために、婚約破棄に奔走する

白キツネ

姉と妹

「俺はお前の事が嫌いだ」


 私を睨みながらそう告げて男は去っていった。その一言の為だけに私に顔を見せに来たのだから本当に暇なのだと思う。羨ましい。


 いつからでしょうか。初めて言われたこの言葉も、もう何も感じることは無くなった。


 私はリリア・ローズ。ローズ公爵家の長女であり、産まれてすぐに殿下の婚約者となった。いいえ、なってしまった。


 初めて会ったのは私が6歳の時。私が登城する予定の1日前、勝手に殿下が我が家にやって来た。そして恋に落ちたのだった。

 私……ではなく、1つ下の妹に。


 殿下は妹と婚約者であると思い込み、ルンルン気分で帰って行った。私とすれ違っても無視だった。


 そして次の日、婚約者として登城した私に様々な暴言を吐いた。どうしても妹がいいらしい。私だってこんな暴言を吐くような人と結婚したくない。なのに、何故か婚約は結ばれることになってしまった。


「はぁ……」

「お嬢様、ため息ばかりついていると幸せが逃げてしまいますよ」

「アン。私は産まれてすぐに不幸せよ。今更逃げる幸せもないわ」


 私専属の侍女、アンの淹れてくれた紅茶を口にしながらもう一度ため息をつく。

 アンもその姿は見慣れているからか、一度は注意しても二度目はしない。心ではしょうがないと思ってくれているんだと思う。そんなアンが側に居てくれてホッとする。


「お父様! どういうおつもりですか!」


 部屋でくつろいでいると妹の大きな声が屋敷中に響き渡る。


「行かなくてよろしいのですか?」

「よろしくないから移動しようとしているじゃない」


 ここ最近、ずっと妹と父がやり取りしているのが部屋に居ても聞こえてくる。その内容は私に深く関わっているので無視をする訳にはいかない。


「お姉様の婚約について考え直してください!」

「ティア、その話は諦めなさいと言っているでしょう?」

「お姉様!」


 私の妹、クリスティーナ・ローズはとても可愛い。背も小さく、その姿はとても守ってあげたくなる愛くるしさもある。髪色もお母様の銀一色を引き継いでおりとても綺麗。

 対して、私は銀に加え父親の茶色が混ざっており、吊り目も引き継いだためにキツい印象を与えるみたい。


 そんな私たち姉妹ですが、家族仲は良好です。いいえ、近頃は父と妹の仲が悪くなったような気がします。主に私のせいで。


 抱きついてきた妹の頭を撫でながら、お父様の方を見る。お父様もティアになんと言ったらいいのかわからない為、私が来たことでホッとしているように見える。


「ティア、お父様を困らせたらダメって言っているでしょう? 私の話を聞いてくれないの?」

「そう言うわけでは! ですが、お姉様が……」

「私の事を思ってくれるのは嬉しいわ。だけどね。それでお父様を困らせたらダメ。わかった?」

「……はい」

「じゃあお父様にも謝りましょう?」

「お父様も、ごめんなさい」

「ああ、すまないな。力になれなくて」


 ギュッとティアの私に抱きついている力が強くなる。


「私の部屋に行きましょうか。お父様、失礼します」


 何か言いたげな父を背に、私はティアを連れて歩き出す。私だって婚約を続けたいわけじゃない。もう諦めている。それだけなのだから。


「……お姉様、ごめんなさい」


 部屋に入ってすぐにティアが謝罪する。


「いいのよ。いつも聞いてるけど、ティアが殿下と婚約したいわけではないのよね」

「絶対に嫌です」


 哀れ殿下。想い人に嫌だと言われていますよ。それも絶対に。希望も何もないですね。


「私の為はわかるけど、もうこんな事は止めましょう?」

「お姉様が正直に話してくれれば、お父様もお母様だってわかってくれるのに! どうしてお姉様は我慢しているんですか! お姉様も嫌なんですよね?」

「……」

「お姉様、正直に言ってください」

「私だって嫌よ。あんな最低男に嫁ぐだなんて。お父様とお母様のような家庭を目指したいに決まっているじゃない……ッ、ティア、貴方!」

「ごめんなさい! でもこれしかないんです!」


 ティアはバタバタと部屋を出て行く。


 ――やられた。


 最近はなかったから油断していた。


 ティアは特別な能力を持っています。人の深層心理に働きかけるような、あの子の前では隠し事ができなくなる。

 これに耐えていたお父様はやはり尊敬する。


 はぁ……。食事の時が面倒なことになりそう。

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