第2話 曇りの空でもお散歩
ー緑が小さい時のことー
「ちょっとこうえんいってくるねー!」
「道分かるかー?まぁ、かしこいお前なら大丈夫か!」
「いってくるねー!」
「夕方になったら帰ってくるんだぞー!」
「はーい!」
僕は、遠くに住む、祖父母の家に来ていた。そして、近くの公園に遊びに行った。
「ついた!ここのこうえん、ゆうぐがおおきいから、いっかいだけでもあそんでみたかったんだよなー!」
まだ小さかったころの僕にとって、大きな遊具があるこの公園は、いつもキラキラと輝いて見えた。
「じゃあまずこのひこうきから!」
公園には大きな飛行機の遊具と、海賊船の遊具、すべり台やブランコにジャングルジム、鉄棒などの遊具があり、遊具の種類がとても豊富だった。僕は、飽きることなく遊具で遊んだ。一つ一つ、じっくりと。
「よし!つぎいくぞー!」
僕は夢中になって遊び続けた。どれくらい遊んだかな、30分以上だったと思うけど。
と、遊んでいるうちに、周りが暗くなってきた。
「あ、もうゆうがただ!じゃあぶらんこやってかえろうかな!」
僕は、最後にブランコに乗ってから帰ることにした。最後にこれで遊べば、全遊具を制覇したことになるのだ。一つだけ遊ばずに帰るなんて、とんでもない!小さい頃の僕は、そういう思考だった。
そして、やや急ぎつつもブランコに乗った僕は、上機嫌でブランコをこぎ始めた。
すると、
次の瞬間。
「!?」
「な、なにこれ…てがぶらんこからはなれない!あ、あしも!」
突然起きた不可解な現象に、まだ小さい僕は、とても混乱していた。手と足がブランコから離れない。結構重大なことだ。このままでは一生家に帰れない。だんだんと状況を理解してきた僕は、怖くなってきて泣き叫ぶ。
「だれか!たすけて!だれかー!」
だけど、運が悪いことに周りに大人はいなかった。どうしよう。どうしよう。どうにかできるもんじゃない。どうしよう。どうしよう。
「ふふ、誰も君を助けてなんてくれないよ?」
「だ、だれ!?」
助けてくれる大人か?それとも不審者か?いや違う。そこにいたのは、醜い姿のバケモノだ。
「お、おば、おばけー---------!!!」
怖くなった僕は、思わず絶叫した。そうか。このオバケのせいでこんな目にあったんだ。どうしよう。食べられてしまう!オバケに食べられて人生終わりだなんて、絶対にごめんだ!と、その時の僕は思った。でも、手と足がブランコでガッチガチに固定されてて逃げられないし、周りに大人もいない。第一、逃げることができたって、このオバケはすごい速度で追いかけて来るに違いない。じゃあやっぱり食べられるのを待つしかないのか…?混乱する小さい頃の僕。
と、その時だった。
「こら、そこの怪物!弱いものいじめをするんじゃないぞ!」
と、ヒーローのようなセリフを吐き、刀を構えて飛び出したのは、マントを羽織ったスーパーヒーロー!ではなく…とんでもなくダサい和服を羽織って、黒い制服を着た、手が真っ黒で背が高い男の人だった。
顔は、逆光で見えないけど、多分めちゃくちゃイケメンだと思う!
「そんなことをする奴は…」
「この世界には必要ない。とっとと消えろ」
僕もバケモノも、口をあんぐり開けて静止。急に雰囲気がかわった…。物凄い気迫だ…。父さんほどのギャップ魔人が見ても驚くと思う。ていうか、これはギャップじゃないか。
「聞こえているのか?」
「とっとと…」
刀を構える男の人。
「消えろっ!」
「カッコイイ…」
僕は思わず口に出していた。だって、その動作は初心者のものじゃなかったから。ムダなく剣を抜くその動作!洗練されたその足取り!剣なんて触ったことがなかった当時の僕でも分かった。その男の人は、とても、とても、強いって。
「くっ…何を…」
バケモノだって、あの人には怯えてた。
「待て、バケモノ。力が弱い子供を狙うなんて、とんでもない卑怯じゃないか?」
「だが―」
「人を」
ゆっくりと剣を構える男の人。バケモノの血の気がなくなってくるのをはっきりと覚えてた。
そして、
「食料として」
次の瞬間、
しゅっ。
「見るんじゃない。」
切った。
「……?」
え、いや、でもまだ、
「さ、帰ろうか、少年。」
「え、えっと…、あの…」
バケモノに傷一つついてな―
さらり。かちゃん。
「え…?」
バケモノが、いない?
「ばけものは、どこ……?」
聞いても、男の人は知らんぷりするばかり。
「えー、お兄さんしーらない!そんなのいなかったよー?」
と言って、男の人は、バケモノがいたところに落ちていた小さなチップのようなものを拾う。そして何やらつぶやく。
「よいしょ…。んあ?またこの組織か。最近ヤケに多いな。ウチの組織なりの『企画』だって控えてるし、面倒事は避けたいんだが…。てあれ?んだこれ。文字化けしてるじゃないか。」
「えーと、なになに?………‼はぁぁぁぁぁ!?」
「まじかー-------っ!サッソク面倒事がぁぁぁぁ!」
「こーらのむ?」
僕は、男の人が酷く悲しんでいるのを見て、コーラを奢ってみたくなったのだ。
「…10本奢ってくれ!全部飲んでやる!」
「いいよ!」
「何で!?」
「え…おかねならたくさんあるし…?」
「これだから金持ちの息子は…!」
「じゃあ、じはんはんばいきさがそう!」
「…それ、何かカンチガイしてるぞ…?」
「そーなの?」
~現在~
「そんなことも…あったなぁ…」
て、あれ?幻聴かな?何か聞こえ…
さま…、…どりさま、…どりさま!
「緑様!散歩に行くのではなかったのですか!?何をそんな…、昔のことを思い返す老人のような目をして…」
「イチー!?何かひどくないか!?」
「あ、すみません…。そろそろいきましょうか」
「ああ」
あれ、何か、思い出せない何かが…。記憶に引っ掛かる何かが…。あの時の後、あの男の人にコーラを奢った後、何をした?何をした?何をした!?
!!
そうだ!あの後は―
「お前、名前は?」
「なかむらみどり!」
「ふーん、いい名前だな。」
「お兄さんは?」
「あ、えっと…ハチ、」
「はち?」
「とでも呼んでくれ」
「あ、緑…クン?ちょっとこっち見て。」
「え、何?」
‼‼‼
「!?」
「じゃあ…お元気で。また会う日まで、な。」
「……げほっ、げほっ、」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
―――――
そうだ、あの人に、睨まれたような微笑まれたような、不思議な目で見られた後、目がものすごく痛くなって……。そうか、それで、その後、左目を失明したんだ。そして、父さんの企業の特別な最新型の機械で治療して…、苺の目と僕の目を、繋いだ。苺が見ているものが、僕の目に映るんだ。あと、僕の首に、首輪をつけて、その首輪についているボタンを押せば、目が、首輪についているカメラからの映像になる。そんなふうに、僕の目が改造されたんだったっけ?
父さんは、全力で否定してたけど、他の人たちが勝手に言うんだ。カワイソウだって。本当は思ってないクセに、言うんだ。カワイソウ、って。社長、つまりは父さんから、良く思われるために。何でそんなこと言うんだろうって、当時の僕は理解できなかったんだ。でも、大人は全部知ってるから、任せておけばなんとかなるかな、って。そしたら、目だけじゃなくて、性格も、格好も、全部、全部、大人たちの思い通りにされた。
でも、だからこそ、この生活が好きだ。誰かに縛られることなく、ゆっくりと生きていける。なにより…今日みたいな曇りの空でも、
「行きましょうか、緑様」
散歩に行きたい、って思えるくらいに。
続く(長くなってすみません!)
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