第12話 欠片
昼休み。いつものように高梨さんと連れ立って、屋上前の階段に向かう。
階段に着くと、最上段に二人並んで腰を下ろす。
ここに来るのも早くも五度目となるため、もうなんというか色々と慣れてきた。移動中に周りから受ける視線とかこうして二人で人気のない所にいる事とか、色々……。まぁ、前者に関しては周りの方も慣れてきているので、僕だけの話ではないのかもしれないが。
「はい。お兄様」
「ありがとう」
笑顔で差し出された弁当箱を、お礼と共に受け取る。
この事はすでに聞いていたので、今日僕は弁当を持ってきていない。というか、母さんも知っているため、そもそも弁当の用意がされていなかった。そういう意味では、確かに高梨さんが母さんに弁当の事を相談したのは、強ちおかしな話ではないのかもしれない。
「そういえば、今度の日曜日って用事ある?」
弁当を食べ進め、程よいタイミングになったところで、朝、東寺としていた話を高梨さんに切り出す。
「日曜日ですか? 特にありませんけど、デートのお誘いですか? なら、行きます」
「……」
グイグイである。
いや、今の話の流れだと自然とそうなるのか。まぁ、全く的外れというわけではないし、むしろ話が早くて助かると思っておこう。
「僕の友人に
「はー……」
話の流れに付いてこられないのか、高梨さんがなんとも言えない返事と表情をする。
「その東寺君が今度告白をしたいらしくて、幼なじみを遊園地に誘いたいとそう言うんだ」
「なるほど。つまり、ダブルデートですね」
ホント、話が早くて助かる。
「それで、どうかな?」
「お兄様発案でない点は少し不満ですが、遊園地でのダブルデート自体にはなんの不満もありません」
「じゃあ、大丈夫って事で」
「えぇ。楽しみにしてます。何を着ていこうかな」
よし第一段階はクリア、後は第二段階を東寺になんとか頑張ってもらって、と。
それにしても――
「遊園地なんていつぶりだろう……?」
小学校の時には何度か連れて行ってもらった――ような気がするが、中学に上がってからは一度あるかないかで、めっきり行かなくなった。
「高梨さんは? 最後に遊園地に行ったのっていつ?」
「私は……」
そう言って高梨さんは、考える素振りを見せる。
「中一の時に家族と一緒に行ったのが最後ですかね。友達とはなかなか行く機会がなくて」
「その辺は僕と同じか」
僕の場合、中一の終わりに同級生と行く展開になりかけたが、なんやかんやあってお流れとなった。……どういう
「高梨さんは何か苦手なのある? 例えば、絶叫系とかお化け屋敷とか」
もしあるなら情報を共有しておいた方が、実際にアトラクションに行く時に色々と都合を付けやすくなる。
「絶叫は多分大丈夫だと思います。お化け屋敷は、中一の時の話なので今は分からないです」
苦笑いと今はという言葉から察するに、当時は苦手だったという事だろう。まぁ確かに、年齢を重ねて平気になっているかもしれないし、そこは様子見かな。
「高梨さん、お化けは平気な人?」
「得意ではないですが、創作物を見るくらいならなんとか……」
「好きではないが、見れなくはないってとこか」
「はい。そんな感じです」
僕もホラーは得意な方ではない。
男の意地というかなんというか、人前ではビビらないようにしているが、一人で見ている時なんかはどうしても体がビクっと動いてしまう。ただ嫌いではないため、テレビでやっていればそれなりに見る。得意ではないが嫌いでもない。……我ながら難儀な話だ。
「でも、実際本当にいるのかな? 幽霊なんて」
「いない事を証明するのは難しいですからね」
悪魔の証明というやつだ。しかも、似たような意味で使われていた黒い白鳥は存在したし、青い
「幽霊は残留思念という説もありますよね」
「あー。なんか聞いた事ある。けど、その説だと、本当の意味で死んだ人には会えないって事になるよな」
もし幽霊が残留思念なら、それはあくまでも死んだ時の思いや感情が場所や物・人にこびりついた存在であり、その人そのものではないという事になる。
「会えますよ」
「え?」
「生まれ変われば、こうして」
そう言った高梨さんの顔には大人びた笑みが浮かんでおり、安易に意見出来ない何かがそこにあった。
「高梨さんは、その、いつ頃認識したの? 前世について」
話の流れからしてもいい機会だと思い、少し踏み込んだ事を
「物心ついた頃にはすでに認識してたと思います。その事に特に疑問を持つ事なく、端からそういうものなんだと認識していました」
「混乱はしなかったの?」
「そうですね。途中で急に思い出したとかなら混乱する事もあったかもしれませんが、そうではなかったので」
高梨さんの話す内容に取り繕った感じや考えながら話している感じは一切なく、少なくとも僕には彼女の話す内容がまるで真実かのように聞こえた。
いや、高梨さんにとってそれは紛れもない真実なのだろう。それに、彼女の考えを妄想だと断言出来る証拠や根拠はない。それこそ、悪魔の証明だ。
「じゃあ、僕が君のお兄様の生まれ変わりというのは、どうやって知ったの?」
高梨さん自身の記憶に関しては、そういうものだと言われれば否定のしようはない。しかし、僕に関してはどうだろう。誰が誰の生まれ変わりかなんて、外から見ただけで分かるものなのだろうか。
「その事については私も説明出来ません。人目見た時、あなたがお兄様の生まれ変わりだと分かったのです。そこに根拠はなく、ただビビッと来たとしか……」
「なんで高梨さんには前世の記憶があって、僕にはないんだろう?」
「分かりません。おそらく、前世の記憶がある私が異常で、お兄様の方が正常なのでしょう。そして、私になぜ前世の記憶が残ってるかは推測すら立てられないほど、何も情報がないのでなんとも……」
「そっか」
話を聞いて、ますますどうすればいいか分からなくなった。
ただの痛い妄想ならどれだけ良かった事か。支離滅裂で一貫性のない妄想話なら、すぐに切り捨て聞き流す事も出来た。しかし、高梨さんの話はそうではない。話の一つ一つにどこか説得力のようなものがあり、簡単には否定が出来ない。
まさか、本当に……。
分からない。今すぐ肯定する事も、今すぐ否定する事も、どちらも間違っているように思え、結論を出す事が出来ない。
いっそ、僕にも記憶が戻れば、話は簡単になるのかもしれない。
妹と禁断の恋に落ちる名家の生まれの男。
想像してみたが、どうも上手く思い浮かばない。
「お兄様」
気が付くと、箸を持つ僕の右手を高梨さんの両手が包み込んでいた。
「無理して思い出す必要はありません。ゆっくり、ゆっくりと」
「……」
僕は
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