第16話 昼食
結論から言うと、絶叫系と非絶叫系は交互に乗ると中和されて永遠に乗れる。
……さすがに永遠は言い過ぎだが、非絶叫系のアトラクションがいいクールタイムになった事は事実だ。甘い物としょっぱい物を交互に食べると永遠にいけるという話だが、それは遊園地のアトラクションにも当てはまるらしい。
とまぁ、そんなこんなで四つのアトラクションを乗り終えた僕達は、当初の予定通り、このタイミングで昼食
四人共特に希望はなかったので、最後に乗ったアトラクションから一番近いレストランに向かい、席が空いていたためそこに入る。
まるで大木をくり抜いて作ったかのような外観をしたそのお店の内装は、やはり壁や床、そして調度品まで木をモチーフにした造りをしており、僕はまるで小動物か妖精の家にでも迷い込んだかのような気持ちになった。
注文を取りに来た店員にそれぞれ希望を伝え、しばし待つ。
「それにしても、神村さんが絶叫系に弱いのは意外だったな」
お
「別に、ちょっと気持ち悪くなるだけだし」
「それを弱いって言うんだろ」
神村さんのよく分からない反論に、東寺がすかさずツッコミを入れる。
「東寺だって、うってなってじゃん」
「まぁ、な」
東寺と僕は絶叫系に強くも弱くもなく、降りた直後はそれなりにダメージを食らっていた。
そんな僕ら三人とは対照的に、高梨さんはというと――
「凄いね、高梨さん。降りてすぐもピンピンしてて」
「小さい頃にバレエをしてたから、三半規管には少し自信があるの」
「へー。そうなんだ。なんで止めちゃったの?」
「うーん。才能がなかったから、かな」
「そっか。まぁ、高校まで続ける子なんて一握りだもんね。ねぇ、他には? 何習ってたの?」
いつの間にか、話は絶叫系から高梨さんの習い事に移った。
「ピアノとプール、後はヴァイオリン――」
「ヴァイオリン!? はー。なんかお嬢様って感じ」
「全然そんな事」
実際の高梨家を見た事がないので、それが
「ヴァイオリン、今でも弾けるの?」
「今はもう無理かしら。弾き方忘れちゃったし……。けど、ピアノならまだ弾けるわ」
「え? 嘘? 聞いてみたい」
「機会があったらね」
神村さんのあまりにいい食いつきっぶりに、高梨さんが苦笑を浮かべる。
「海野君は高梨さんのおウチ行った事あるの?」
「いや、言って、まだ付き合って十日くらいだし、家に行く機会なんて……」
「そっか。じゃあ、高梨さんは海野君の家行った事ある?」
「えぇ。むしろ、平日は毎朝行ってるわ。先週の日曜日は、一緒にお母さんとお料理もさせてもらって」
そう言う高梨さんの顔は、なぜかドヤ顔だった。
というか、僕の言った事、速攻で覆されたな。そう言えば、高梨さんは付き合い始めた翌日には、早くも僕の家に上がっていたっけ。……改めて考えても、凄い話だな。
「ふーん。お母さんとね……」
高梨さんではなく、なぜか僕を見る神村さん。
思わず、視線を
「……」
悪いことをしているわけではないのに、なんだか居たたまれない気持ちになってくる。
「お待たせしました」
僕にとっては、絶妙なタイミングで料理が届く。
それぞれの前に料理が並ぶ。
神村さんの前にはナポリタン、東寺の前にはドリア、高梨さんと僕の前にはハンバーグとライスが。作業時間が
「この後、どうする?」
口に運んだドリアを飲み込み、東寺がそんな事を言う。
「誰か行きたいとこある人っている?」
三人に聞いている風を
「観覧車とかお化け屋敷とか、定番どころも一応抑えておきたいよな」
なるほど。観覧車とお化け屋敷。おそらく、先に
「どっちもいいね。どっちも行こう」
「私もいいと思う」
女子二人からも同意を得られたので、その二つにはまず間違いなく向かうとして――
「そもそも、時間的に後いくつ行けるんだろう?」
「六時に帰るとしたら……行けて三つかな」
僕の疑問に、東寺が考えながら答える。
「まぁ、そんなところか」
自分でも頭の中でタイムテーブルを作り、同じ結論に行き着く。三つだと時間がやや余るが、その時間はお土産選びにでも当てればいいだろう。
「じゃあ、後一つ?」
言いながら、神村さんがスパゲティーをフォークに巻き付ける。
「そうなるね」
お化け屋敷と観覧車に行くとしたら、その二つの枠は埋まるわけだから必然的にそうなる。
「うーん。高梨さんどう? どこか行きたいとこある?」
気を遣ったのか行きたい所が他になかったのか、はたまたその両方か、神村さんが高梨さんにそう話を振る。
「行きたいところ、ね……。あ、『ノイジーノイジーモンキー』なんてどうかしら?」
「「「……」」」
高梨さんの提案に、三人が同時に黙り込む。
『ノイジーノイジーモンキー』――騒がしい騒がしい
園内にある他のジェットコースターとは速度・高低差共に段違いらしく、その分、搭乗時の衝撃も当然ながら跳ね上がる、という話だ。全部テレビで仕入れた情報なので、実際のところは分からないが、映像で見た限り決して
「僕から一つ提案があるんだが」
「気が合うな。俺もだ」
「お化け屋敷行った後は、別行動にしないか。六時にゲート前の広場に集合って事で」
その方がお互いのためだろう。
「だな。舞奈もそれでいいだろ?」
「え? あ、そ、そうね。二人のお邪魔しても悪いしね」
動揺のあまり、今更な言い訳を口にする神村さん。
さすがに
「あ、無理にって話じゃないから、みんなが嫌なら別に行かなくても……」
一連の流れを見て、高梨さんがそんな事を切り出してくる。
「僕は全然無理だと思ってないから、一緒に行こうよ。乗りたいんでしょ? 『ノイジーノイジーモンキー』」
「うん。ありがとう、晃樹君」
「これ、本当に私達邪魔なんじゃ……」
「言うな言うな。これでも向こうは、気遣って抑えてくれてるんだから」
何やら外野がうるさい気もするが、店のBGMだと思って聞き流しておこう。
さて、昼食終えたら、お化け屋敷行ってそれから大一番だ。精々、みっともないところを見せないように頑張ろう。
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