第4話 禍福は糾える縄の如し


 そして、振り返る。

 そういや、菓子作りのために入った最初の新人1が急に消えたよな…。悪い子ではなかったし、いかにも、おっとりとして優し気な子だった。つまりは、彼女はなんか察知して、逃げたんだな。やりたいことがみつかったからとか、言ってたけど。それは若い子がヤバイバイト先から逃げるための口実ナンバー2だよな。

 それから、私は逃げることを決めた。

 多分、これは何を言っても無駄だし、どうやったって無駄だ。

 けれど、一つだけ心残りがあった。

 仲良くしてくれたパートさんのことだ。


 世代も一緒で、子育て中も一緒。

 住んでるところもさほど遠くなくて、自分の病気のことを言ったら、この仕事が気分転換やリハビリになるといいですねと言ってくれた人である。

 少なくとも、私が休んだことでしわ寄せは来ているはずだし、良く思っていない可能性もある。けれど、どうしてもその人とはなんとかつながっていたかった。

 私は勇気を出して、逃げること、その店主からプライベートでも近寄らないことを告げた。


 すると、こんなラインが来た。


 貴方のどこが悪いのか判らない。

 店主は大分酷いことを言っているけれど、私は判らない。

 どうも、店主は前々から気に入らないことがあると、どんなにいい人でもかなり当たり散らす癖があり、何人も辞めている。私も出来るだけ距離を置いて仕事をしている。プライベートは特に近寄らない。貴方は賢明な判断をした。よかったら、これから、お茶友、ママ友になりましょう。


 また、泣きそうだった。

 うれしくて、泣きそうだった。

 今回のことはプラマイゼロなら、それでいいと思っていたけれど、プラスの出来事が起こった。店主のことなどどうでもいいぐらい。喜ばしいことだった。

 これから、お互い忙しくて、不通になるかもしれないけれど、それでもいいから、その言葉は嬉しかった。一度でもいいからお茶しにいこう。

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ヤバイ人に遭い、ヤバイことになり、けれど、友人を得た話 佐倉銀 @sakuragin

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