第9話 ヨムカク親子の日常③
◆
――ある休日のリビングにて
『日本怪談集: 妖怪篇』
◇母T(以下T)「うーん……ねぇねぇ、読書中にごめん。ちょっといい? 」
◆息子Y(以下Y)「ん? いいけど、なん?」
◇T「今、書いた詩なんやけどね。これ読んでみてくれんかなぁ?」
◆Y「見せてん」
ディスプレイを見せるT
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「こんな、ゆめをみた」つきの
こんな、ゆめをみた
臨月のわたしは
仔熊にしがみつかれている
仔熊は眠っているようだが
そっとその身を離そうとすると
敏感に気づいて
わたしは陣痛が始まるが
そんな状況なので
苦痛と不安で
無事産めるのかと
気が気ではない
仔熊は抱きついたままで
スヤスヤと眠っている
開け放たれた窓の外からは
夜空に並んだ二つの月が
薄闇のなかの
仔熊とわたしを照らしている
たまらなく哀しい気持ちになって
わたしはホロホロと泣きながら
仔熊を抱きしめる
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
じっと見入るY。
ややあって
◆Y「へぇ、これは僕、かなり好きやわ」
◇T「そう?(かなり嬉しげに)アンタがそんなふうに言ってくれるなんて珍しいよね」
◆Y「そうかなぁ。確かに僕は詩はほとんど読まんし、オカンがいつも書きよるようなのは正直ピンとはこんけど」
◇T「アンタ、ハッキリ言うねぇ(笑)」
◆Y「でもさ、忖度した感想なんてオカンも聞きたくないやろ?」
◇T「そりゃね」
◇T「で、今回の詩が好きっていうのは、なんで?」
◆Y「ん、前に幾つか読ませてもらったなかでもやけど、僕は現実的な心情のより、幻想的な作風が好きなんよね」
◆Y「それに、この詩は夏目漱石の「夢十夜」を
◇T「ああ、そりゃ意識して書いとるもんねぇ。題名も、そうやもん」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
『夢十夜』(ゆめじゅうや)は、夏目漱石著の長編小説。1908年(明治41年)7月25日から8月5日まで『東京朝日新聞』で連載された。
現在(明治)を始め、神代・鎌倉・100年後と、10の不思議な夢の世界を綴る。第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の書き出しである「こんな夢を見た」が有名。漱石としては珍しい幻想文学のテイストが濃い作品である。
――Wikipediaより
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
◆Y「ふむふむ」
◇T「ありがと。漱石先生には遠く及ばんけど、そう言われると嬉しいわぁ」
◆Y「そういやさぁ、オカンはかなり幅広いジャンルを読むけど、僕はそんなに広いジャンルを読まんしねぇ」
◇T「ん、興味を持つ方向って人それぞれやし、形も違うけ、面白いよね」
◇T「いろんな考え方や感じ方を知ることができるのはいいねぇ」
◆Y「うんうん、読むにしても書くにしても、全てに響くことも、全てに響かせることもできんのやけさ」
◇T「確かにね」
(母は創作に息子は読書に、またそれぞれ没頭する)
穏やかなひと時が静かに過ぎていく📖☕️
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます