第3話 それぞれのヨム(母T*後編*)

 中学校に入っても、わたしの読書熱は、ますます高まるばかりだった。

 学校の図書館にも入り浸り、毎日のように本を借りていた。


 そして、これはわたしの読書の癖でもあるのだが、好きな物語を見つけると、その作家さんの作品ばかりを探して読みたくなる。


 星新一は「ボッコちゃん」から。お小遣いの全てを文庫本につぎ込んだ。一番好きな作品は「午後の恐竜」


 赤川次郎も「三毛猫ホームズ」シリーズ、「幽霊シリーズ」と夢中で読んだ。


 芥川龍之介は「羅生門」「鼻」「芋粥」

 宮沢賢治は「銀河鉄道の夜」


 ジャンルは、それこそ手当たり次第。

 これを読まなきゃ、じゃなくて、ひたすら面白そうで読みたいと感じるものを読んでいた。


 勉強の為の読書でなくて、あくまでも娯楽の為の読書だったなぁ。


 時代物は山本周五郎(これは父の本棚から借りて読んだ「五瓣ごべんの椿」がきっかけ)

 池波正太郎は「剣客商売」シリーズや「鬼平犯科帳」シリーズなど。

 人情や心の機微、情緒での影響を受けた気がする。


 あとは推理小説にハマりだしたのもこの頃で江戸川乱歩、横溝正史、妖しげで、どこかに闇を感じる物語をドキドキしながら読んでいた。テレビドラマでも明智小五郎シリーズや金田一耕助シリーズを放送していたのを覚えている。

 あと外国作家ではアガサ・クリスティ!

 探偵はミス・マープルやエルキュール・ポアロ。

 謎を解き明かしていく名探偵と意外な真犯人というのに夢中になった。


 この推理小説ミステリー好きはその後も続き、綾辻行人、二階堂黎人、有栖川有栖、そして京極夏彦などなど片っ端から読んだ。


 ついでに言うと怖がりで臆病者のクセに怪談や不思議話にも惹かれるたちで、幼少にアニメで観ていた「ゲゲゲの鬼太郎」からの水木しげる大先生ファンでもある(この辺が息子に影響を与えているのかも?しれない)


 ◇◇◇


 ものすごく駆け足で振り返ってきたけれど、つくづく乱読だなぁと思う。

 興味を惹かれたところを糸口にして、そこから繋がって広がっていく。

 反面、そんな自由奔放な?読書だから、名作と呼ばれる作品でも未読もある。


 まぁ、それはそれで、読むべきえにしができた時に手にとることになるだろう。

 そう思っている。


 ◇◇◇


 最後になったけど、詩のことも少し。

 中学生の頃、透明で中に紙などを挟める下敷が流行っていて、わたしは室生犀星むろうさいせいの「切なき思ひぞ知る」という詩を、書き写して挟んで持ち歩いていた。


 国語の教科書?それともコバルト文庫の(懐かしい!)詩集で知ったのか記憶が曖昧だけど


 >我は張り詰めたる氷を愛す。

 >斯る切なき思ひを愛す。


 最初の一行から惹き付けられた。


 あれから歳月は過ぎて、作品背景を知り、自身もそれなりに人生の山谷を越えてきた今


 >我はつねに狭小なる人生に住めり、

 >その人生の荒涼の中に呻吟せり、

 >さればこそ張り詰めたる氷を愛す。

 >斯る切なき思ひを愛す。


 しみじみと、この最後が胸に沁みいる。


 好きな歌人、詩人についてや、好きな作品は他にも数限りなくあるのだけど、キリがないので、母Tのヨムについては、一旦筆を置きたいと思う。


 ◇◇◇


 次回は

 第4話 それぞれのヨム(息子Y編)

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