第18話「美術部と安藤」

「どうでしょうか?」

美術部の顧問の先生に俺が描いた油絵を見せる。

「うーん。正直言って、君には才能が無いと思うよ」

と言われてしまったので、美術部も諦めた方が良いだろうな……と思ったのだが……。『お題目に沿った絵を描け』というのがこのコンクールの特徴らしい。つまりは、『一番お題目に沿った絵を描く』というわけだ。それならば……。俺はとある一枚の絵を描き上げた。そして、その絵を先生に提出すると、

「これは凄い!こんなに綺麗に、かつ迫力のある風景画を描くとは……」

と言ってくれた。良かった。

「じゃあ、これでお願いします!」

「ああ。良いんじゃないか?でも、本当にこれでいいのか?」

「はい。大丈夫です。では失礼しました~」

話は変わって、今日は体育祭である。クラスごとに赤組白組青組に分かれて戦うのだ。そして、俺は今年もアンカーを務めることになっている。去年の借りを返すチャンスだ。ちなみに去年は何位くらいだったかというと……ビリから数えて三番目であった。まぁ、そんなことはどうでもいいか。

「位置に着いて……ヨーイ……ドンッ!!」

ピストルの音と共に一斉に走り出す俺たち。まずは最初のコーナーをクリアして、そのまま次のコーナーへと向かっていく。そして、最終コーナーに差し掛かった時、俺はふと違和感を感じた。なんだろうか。何かがおかしいような気がする。だが、それが何なのかまでは分からない。そして、俺はその違和感の正体を探るべく辺りを見回した。すると、ある一点だけ明らかに他の場所とは違う空気を放っている場所があることに気づいた。

「えっ!?あれってまさか……」

そう。それは俺の隣を走る人物から発せられているものだった。そいつの名前は安藤裕也。成績優秀・スポーツ万能・イケメンで女子生徒の人気ランキング第一位の完璧超人。そんな奴が何でこんなところで走っているんだ?しかも、あいつは陸上部じゃないはずなのに……。まぁ、今は気にしている場合ではないな。早くゴールしないと。

「くっ……このままだと追いつけないかもしれないな」

しかし、安藤の方はまだ余裕がありそうだ。おそらく俺よりも体力があるのだろう。だからといってここで諦めるわけにもいかない。どうにかして勝たなければ……。俺は必死になって考えた。そして、一つの答えを見つけた。これならきっといけるはずだ。よし、やってみるか!!

「安藤、勝負しようぜ」

「ほう。俺に挑むつもりか。面白いじゃないか」

「お前に勝つためにはこれしかないと思ってね」

「へぇー。なかなか言うじゃないか。だけど、勝てるかな?」

「それはやってみないとわからないさ」

「確かにそれもそうだな。じゃあ、やろうか」

「おう。望むところだ!!」

そして、ついに最終決戦が始まった。お互い一歩も譲らない接戦を繰り広げていたが、徐々に差が開いていき、ついには抜かされてしまった。

「やった!遂に勝ったぞ!!」

「くっ……負けちまったか」

安藤に負けたことが悔しくて仕方がない。もっと努力すれば良かったかなぁ。まぁ、今更後悔しても遅いけど。こうして体育祭は終了した。結局、優勝したのは安藤率いる白組だった。

それから数日後のこと。ピンポーン。家のチャイムが鳴る音が聞こえてきた。誰が来たんだろうと思い玄関を開けるとそこには意外な人物が立っていた。

「よぉ。遊びに来たぞ~」

そこにいたのは安藤だった。なぜここに来たんだ?こいつは確か……彼女とかいなかったか?そんな疑問を持ちながらもとりあえず家に上げてあげることにした。リビングまで案内した後、お茶を出して少し話でもすることにした。

「それで何しに来たんだよ?」

「暇つぶしさ。それに……」

「それに……?」

「いや、何でもない」

「なんだそりゃ……」

「とにかく今日一日よろしく頼むわ」

こうして何故か安藤と過ごすことになった。まぁ、別に悪い気はしないんだけどさ。

「うーん。どうしたものか……」

現在時刻は夜の10時30分。もうすぐ日付が変わる頃だ。安藤はとっくに帰っていた。明日提出しなければならない課題がまだ終わっていない。俺はいつもギリギリになるまでやらないタイプなのだ。という訳で、今から始めることにしたのだが、

「眠いなぁ……」

徹夜でやるというのも結構辛いものだ。普段からあまり寝ていないというのもあるけれど。

「コーヒー飲んで頑張るか」

台所へ行き、インスタントコーヒーを入れる。カップにお湯を注ぎ、砂糖とミルクを入れてかき混ぜてから一口飲む。うん。苦味があって美味しい。やっぱりブラックが一番だよなぁ。

「さてと続きをやりますかね」

こうして再び課題に取り組み始めた時だった。突然インターホンの音が鳴り響いたのだ。こんな時間に誰だろうと思いつつモニターを見るとそこには安藤の姿があった。

「どうしたんだ?忘れ物か?」

『ああ。ちょっと家の鍵を忘れてしまったみたいでな』

「マジで!?」

『まじだ。入れてくれないか?』

「分かった。今開けるから待ってろ」

鍵を開け、安藤を招き入れる。そして、ソファーに座ってもらった後、俺は冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、安藤に差し出した。

「ほら、これでも飲めよ」

「サンキュー」

そして、二人で飲みながらテレビを見る。特にこれといった会話も無いまま時間が過ぎていく。

「そういえばさ、お前は好きな人とかいたりするのか?」

「えっ!?いきなり何言ってるんだよ」

「いいじゃん。教えてくれたって」

「まぁ、いるにはいるけど……」

「へぇ~。どんな人なの?」

「それは……秘密だ」「何でだよ!教えてくれないの?」

「まぁ、いつか教える時が来るかもしれないけどな」

「そっか……」

「それより、俺の質問にも答えてほしいな」

「いいぜ。答えてやるよ」

「ありがとう。それじゃあ早速だけど……一番最初に好きになった人は誰なんだ?」

「そんなこと聞いてどうするんだ?そんなことしてたらキリが無いぞ」

「まぁ、確かにそうだよな。じゃあ、次に行くか」

それから色々と話をした。安藤が俺の家に泊まるのは今回が初めてなので、意外と盛り上がったりした。結局就寝した時は深夜1時になっていた。

体育祭も終わり、文化祭の準備が始まったある日のこと。俺はいつものように教室で自分の席に座り、本を読んでいた。最近はラノベばかり読んでいるせいか、たまには普通の小説を読みたくなる。そこで図書室に行き、適当に本を探そうとしたその時、偶然安藤と会った。

「おっす。今日は何読んでるんだ?」

「ああ、これはライトノベルだよ」

「へぇ~そうなんだ。ちょっと見せてくれよ」

「別に構わないけど……」

「どれどれ……あっ!このキャラ知ってるわ。結構面白いよな」

「ああ、人気あるよな」

「でもさ……俺の方がもっと面白くできると思うんだよな」

「はっ……?」

何を言ってるんだ?こいつは……?

「いや~実はさ、前から思ってたんだよ。この作者よりも俺の方がもっと上手く書けるんじゃないかなって」

変なことを言うなあ……と思いながら、安藤との会話が終わった。

美術部での活動は順調だった。最初は慣れないことばかりで戸惑っていたけど、徐々に上達していき、今ではそれなりに描けるようになった。そんなある日のこと。部長が突然こんなことを言い出した。

「ねぇ。皆にお願いがあるんだけどさ、私に絵を教えてくれる人を探してきてくれないかな?」

「なんでですか?自分で聞けば良いんじゃないんですか?」

「それがね……中々そういう人がいないのよ。ほら、うちの学校の生徒って基本漫画とかあんまり描かないからさ」

「なるほど……」

確かに言われてみればそうかも……。でも、だからといって僕にそんなことができるのだろうか。正直不安で仕方がない。とりあえず僕はその旨を伝えることにした。すると、先輩はこう言った。

「大丈夫だって!何かあったら私がフォローしてあげるから」

「分かりました。頑張ってみます」

こうして僕は初めて自分一人で部員募集をすることになった。しかし、いざ行動しようとするとやはり緊張してしまう。どうしようかと考えていると、後ろから誰かに声をかけられた。振り返るとそこには一人の女子生徒が立っていた。

「あの……どうされましたか?」

「いえ、ちょっと困っていることがありまして……」

「良かったら話だけでも聞かせてもらえませんか?」

「はい。実はですね……」

話を聞くと彼女は今年入ってきたばかりの新入生らしい。そして、最近絵を描くのが好きになったらしい。名前は高橋さんという。

「そうだったんですか。それで、どうして悩んでたんですか?」

「実は……私の描いた絵を見てほしいんです。それで、アドバイスをしてほしいと思っていて……」

「そういうことだったんですね。もちろん協力しますよ!」

「ありがとうございます」

という訳で、彼女の作品を見ることになった。

「凄く上手じゃないですか。これなら問題無いと思いますよ」

「ありがとうございます」

「ただ……少しだけ気になるところがあるので、そこを直せばもっと良くなるかもしれません」

「どこでしょうか?」

「まずはですね……」

こうして、彼女に絵のコツを教えることになった。ちなみに、この日以来、彼女と一緒に活動することが多くなった。また、一緒に活動しているうちに仲良くなり、お互いのことを名前で呼び合うようになった。

「こんにちは」

「おう、今日も来たのか」

「はい。ちょっとお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「いいぜ。それじゃあ今度の土曜日に家に来いよ」

その後俺が告白し付き合うようになった。

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