第14話「プロジェクトチーム」
うおおお!今の俺、マサキはフルパワーだ!初めてリーダーを任されたプロジェクトに全力で取り組んでいる。そして、プロジェクトチームにいるアユミに恋している。これはチャンスだ。告白してOKをもらえたら、もう何も怖いものはない!そう思ったのに……。
「マサキ、お前じゃ力不足だ」
上司から突然告げられた無情な宣告。俺のチームは大ピンチ。このままでは失敗確実だ。でも……俺は諦めないぞ!今こそマサキの本気を見せる時が来たんだ。俺は何としても成功させる!そして、この企画を成功させてアユミと……。ああ、神様お願いします。どうか力をお貸しください。そして、俺の願いを聞き届けてください!さあ行くぜ!今こそマサキが目覚める!
―――ブオオオンッ!!!―――……ん?何かエンジン音が聞こえるような気がする。それも段々近づいてきているみたいだし、一体どこからだろう?あれ?よく見ると目の前には見慣れた車が止まっているんだけど。しかも運転席にいるのはまさか……アユミ!?どういうことなんだ。
アユミが車から降りてきたけど様子がおかしい。だって彼女は真っ白になって目を回していたんだから。一体彼女に何があったっていうんだ?心配だけど、まずはこの車をどうにかしないと。
「すみません。ちょっといいですか?」
「ん?どうしたマサキ。そんなところに突っ立ってないで早く中に入りなさい。今日は新しい番組会議をするって昨日話したばかりじゃないか。何をぼんやりしてるんだよ。ほら、入るよ!」
「あっ!ちょっ、待って!」
アユミの様子もおかしかったけど、俺が感じていた違和感はそれじゃない。もっと別のものだ。そう、まるで時間が巻き戻されたみたいな感覚だった。もしかしてこれって……夢なのか?
「ん?マサキ、まだ寝ぼけてんのか?」
「え?いや……」
「まったくしっかりしてくれよな。まあいいか。とにかくこっちに来てくれ」
アユミに促されて部屋に入ると、そこには数人のスタッフが集まっていた。彼らは皆忙しなく動いている。その光景を見て思い出した。そうだ!今日は新しい番組の会議があるんだった。なのに俺はどうしてこんなところでボーっと立っていたんだろうか。全くわけがわかんねえよ。それにしても妙にリアルな夢だよなぁ。
「おっ、来たか。それじゃ早速始めようぜ」
司会進行を務めるのはディレクターのサトルさんだ。彼は俺達が所属するチームのチーフプロデューサーでもある。年齢は40代半ばくらいだろうか。この番組の企画担当も兼任していて、この企画は彼の肝入りでスタートしたものだったりする。だから責任重大だ。
「はい、よろしくお願いします!」
会議が始まった。最初の議題は新商品の紹介コーナーについてだ。これは毎回決まった時間に放送される人気のコーナーである。ちなみに今回のテーマは『おすすめのお取り寄せグルメ』だ。
「じゃあアユミちゃんから説明を始めてくれ」
「はい。今回はいつもとは少し趣向を変えてみました。というのも、最近テレビCMでよく見かける通販サイトの特集をしようと思ったんです。そこで今回紹介するのはこちらです」
アユミがリモコンを操作すると画面が変わった。そこに映っていたのは……なんだ?白い箱のようなものが置いてあるだけにしか見えないんだけど。これが本当に商品なんだろうか。
「あのー、アユミちゃん。これって一体何?」
サトルさんが質問する。
「はい。それはですね。この中にたくさんの美味しい食べ物が入っているんですよ」
「えっ?そうなの?全然見えなかったんだけど。でもそれが本当なら凄く魅力的だね。それでいくら位するのかな?」
「はい。値段の方は3000円前後でお買い求め頂けると思います。ただ、数量に限りがありますのでご注意ください」
「へぇ~。結構安いんだねぇ。確かにそれだけあれば十分かもしれないけど。うーん、でもやっぱり買うかどうかは実物を見ないと判断できないよね。ねえ、マサキ君。君はどう思う?」
「え?あ、はい。そうですね。俺も同じ意見です。できれば現物を見せてもらえれば助かります」
「わかりました。ではこれからすぐに手配します」
アユミが俺にこの場では丁寧語で答える。
「うん。頼んだよアユミちゃん。楽しみにしてるからね」
サトルさんの言葉を受けてアユミの発言は終わった。その後アユミが電話をしている間に他のスタッフが箱の中身を取り分けてくれた。どうやらお菓子の詰め合わせらしい。それを試食しながら打ち合わせを進めていく。
「はい。これで一通り確認できました。皆さんありがとうございます。では最後にもう一度私から補足させていただきます。今回の企画のコンセプトなのですが、簡単に言うと普段の生活にちょっとした潤いと安らぎを与えてくれるようなものを紹介していきたいと思っています。そして最終的には視聴者の皆様に生活が豊かになるような情報を提供したいと考えています」
「なるほど。アユミちゃんは相変わらず真面目だねぇ。だけどそんなに堅苦しい感じだと疲れないかい?」
「いえ、そんなことはありません。むしろ私は今の自分のスタイルの方が性にあっていると思っているくらいです」
「そうか。まあアユミちゃんの性格からすればそうだろうな。よしわかった。じゃあ今度からその路線で行こうか。だけど無理だけはしないようにね。もし何かあったらいつでも相談に乗るよ。遠慮しないで何でも言ってきなさい。いいね?」
「はい。その時はよろしくお願いします。それじゃ今日はこれで失礼します。さあ、マサキ行くわよ!」
「え?ああ、うん。それじゃ皆さんまた来週!」
こうして番組会議は終了した。帰り道。俺はアユミと一緒に車に乗って家まで送ってもらうことになった。
「ふうっ……。やっと帰れた。今日も一日長かったよ。会議ってあんなに大変なものだったっけ?」
「何言ってんのよ。まだ始まったばかりじゃない。本番は明日なのよ」
「わかってるよ。だけど今日はもうへとへとなんだよ」
「はいはい。じゃあ一緒に食事に行かない?」
え?アユミからお誘い?
「じゃあ行こう!」
俺は即答した。
「決まりね。どこか良い店知らない?」
アユミはグルメ通として知られているけど、実はそんなに詳しくはないんだ。だから俺が案内することになった。やって来たのはこの辺りじゃ有名なイタリアンレストランだ。俺はアユミをエスコートして中に入る。店員に2人分の席を予約していたと告げると、店の奥の方に連れて行かれたのでそこで座ることにした。テーブルにはキャンドルが灯されていてムード満点だ。
「素敵な雰囲気のお店ね。気に入ったわ」
「俺もここの雰囲気は好きだよ。料理の味も良いし、きっとアユミの口に合うと思うよ」
「そうなの?だったら期待しちゃおうかな。それにしても……」
アユミが周りの様子をうかがい始める。どうやら誰かに見られている気がするようだ。
「なんかジロジロ見られてる気がするんだけど、これってもしかして……」
「うん。多分俺たちのことが話題になってるんだろうね」
アユミの視線が痛い。俺達に向けれている興味本位の目が凄く気になるみたいだ。
「やっぱりそうなのね。何?ひょっとして私達のこと記事にするわけ?」
「まあそういうことだね。だけどこれはあくまで噂みたいなものだよ。実際に俺達を取材しようとかそういう話は今のところ出ていないから」
「そうなの?でも油断は禁物だから注意するに越したことはなさそうね」
「まあ大丈夫だって。俺達は今までどおりやれば問題ないんだから」
それからしばらくは雑談を楽しんだ後、俺達が注文した料理が届いた。そしてそれを堪能しながら食事を楽しんでいると……突然入り口の方が騒がしくなってきた。なんだ?
「おい、お前らちょっとこっちに来い」
ガラの悪い男3人が店の中に入ってきた。そしてその中の1人の男がいきなりアユミの腕を掴んだ。彼女は驚いた表情を浮かべている。一体何事だ?
「え?あの、なんですか?」
アユミの顔色が変わる。どうやら怯えているようだ。
「なんですかじゃねえよ。俺らの話を盗み聞きしてただろ?ちょっと付き合えよ」
「え?い、いえ、そんなつもりはありません。私、たまたまここに居合わせただけですから」
アユミが必死に弁明するが、相手は聞く耳を持たない様子だ。
「うるせえ!言い訳なんてどうでもいいんだよ。とにかく俺らに付いてこい」
そう言って強引に連れ出そうとした。まずいな、このままだと暴力を振るわれるかもしれないぞ。なんとかしないと。俺は慌てて立ち上がった。
「ちょっと待てよ。その子嫌がってるじゃないか。離せよ」
「あん?誰だお前は?」
「その子の友達だ。嫌がってるから手を放してくれ」
「ふん、おめーは黙って見てればいいんだよ。邪魔すると痛い目見るぜ」
「いや、でも、その子は俺の彼女なんだよ。だから困ったことになる前に早く解放して欲しいんだ」
俺の言葉を聞いた瞬間、相手の態度が変わった。ニヤリとした笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
「ほう、それは面白い話じゃねーか。それなら尚更連れて行く理由ができたってもんだ。さあ来い」
そう言って再び腕を掴んできた。俺はその手を振り払おうとしたがビクともしない。かなり力が強いようだ。
「何やってんのよマサキ!」
アユミは俺を助けようとしてくれたけど、周りの客が怖がって近寄れないでいた。こうなったら仕方がない。俺はポケットからスマホを取り出した。そして画面を見て……よし!まだ電源が入っている。俺は電話アプリを立ち上げた。
「ああ?何してんだよ」
「いや、警察に通報しようと思って」
「はあ!?ふざけんな!」
相手が激高した。だが俺は怯むことなく言葉を続ける。
「いい加減にしろよ。警察沙汰になったら困るのはそっちだろ?」
「ちっ……。おい、行くぞ。もうこんなところに用はない」
3人組は舌打ちしながら店を出て行った。
「マサキ、あんた私のこと俺の彼女って……」
「アユミ、俺が君の彼氏だってことは事実だよね?」
「まあ、それでいいんじゃない?」
こうして彼女と付き合うことになった。
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