第11話「最初にヒップホップ」

「恋愛ジャンキーが宣材写真。例大祭は結果次第。平安時代で県大会。背が小さい女神達。世界タービン永代橋。Yo.」

……なんてやってみたけど、この項目だけで5ページくらい埋まっちゃったから今日はやめておきますね。またいつか気が向いたらやると思います。多分。では、お付き合いいただきありがとうございました!

「あーあ、これどうしようかな……」

俺の右手には1枚の名刺があった。それは、俺と小鳥が合同で主催したイベント「第10回小説同人誌即売会」で交換したもの……ではない。これはあのイベントでもらったものでもない。俺達が開催した同人誌即売会で、初めて自分の本を買おうと思ってくれた読者様がくれたものなのだ。「うわぁ~!!」とか「何コレ!?めちゃくちゃ面白かったんですけど!!」とか「ぜひ、次回のイベントも開催してください!!」とか言われて嬉しかった。いやぁ~……まさか自分がこんな体験をするとは思わなかったな。

そう思いながら、俺はスマホを取り出し電話をかける。相手はもちろん……「小森」だ!! 5分後、彼女はやってきた。まぁ、「来た」と言っても玄関に立っていたのだが……。

「こんにちは!」と言う彼女の声はとても弾んでいた。そりゃそうだよな。だってこれから「同人誌を作ろうの会」の第2回ミーティングが始まるんだもんな。ちなみに前回のミーティングは昨日だったのだけれど、その話は別の機会にでも話してあげようと思う。「おっじゃまっしまーす!!」と勢いよく入ってきた彼女を見て思った。……やっぱりこいつ、めっちゃ可愛いわ。そんなことを思うと同時に「もう二度とこいつとは会うことはないだろうな……」と思った。だって俺達の住んでいる場所って結構遠いんだよ?東京からは新幹線に乗って行かなければならない距離だし、車を使っても3時間はかかる距離にある。だから、この会合が終わってしまったら、彼女と会うことは二度とない。そう思っていた。

しかし、次の日の晩に電話がかかってきた。内容は「明日暇ですか?」というものだ。「はい、特に用事はありませんが……」と答えると「それなら、今日の夜7時に私の家に来ませんか?相談したいことがあるんですよぉ~」と言われた。俺は最初断ろうと思っていたのだが、彼女があまりにも必死だったのでついOKしてしまった。その結果がこれである。

そして今に至る。俺はテーブルの前に座り、向かい側に座っている小森さんを見た。彼女はニコニコしながらこちらを見ている。

「さっそくですけど……今日はどんな感じで進めましょうかね?」と俺が言うと「えっとですねぇ~……まずは今回の企画について話し合っていきたいと思っているんですけど……いいですか?」と言われてしまった。まぁ、別に断る理由もないので「はい、大丈夫ですよ」と答えた。

「ありがとうございます!!では早速本題に入りたいと思います!!」と言った瞬間、彼女の目が輝いた。そしてそのまま話し始めた。

「実はですね……私は今回『BL』をテーマにしてみようと考えているのです!!」と言い放った。俺は一瞬耳を疑った。「ん?なんていった?びーえる?なんだそれは?聞いたことがないぞ?」と思いつつ、彼女に聞いてみた。すると彼女は「知らないんですか!?」と驚きの声を上げていた。

「いやいやいや、知りませんよ。何ですか?それ。新しいお菓子の名前ですか?」と聞くと彼女は呆れたような顔をしていた。そして「はぁ~……本当に何も知らないんですね……。では説明しますね!!」と言い始めたので、俺達は黙って聞いていた。

「そもそもですね……BLというのはボーイズ・ラブの略なんですよ。つまり男同士の恋愛を描いた小説のことを言います。簡単に言えばゲイの小説のことなんですけどね」とのことだった。なるほど、確かにそういうことであれば知っている。俺は昔、姉貴に無理やり読まされたことがあった。あの時は地獄だったな……。そういえばあの時もこんな顔をしながら読んでたな……。

そんなことを考えているうちに話が進んでいたようで、彼女は少し興奮気味に話を始めていた。

「それでですね、今回この題材にしようと思った理由は、やはり前回出した同人誌の内容が関係しているわけなんですよ。ほら、私が言ったじゃないですか!!『今回は「BL」をテーマにした同人誌を出す!!』って。覚えてますよね!?」と言われる。もちろん、忘れるはずがない。あの時の彼女の目はマジだったからな……。

「はい、覚えています。確かあれって『同性愛を扱った作品』っていう意味なんですよね?でも、それがどうして今回の内容に関係があるんですか?」と言うと彼女はまたもや「はぁ~……」というようなため息をつきながらこう答えた。

「あの同人誌は私の友達が書いたものなんです。その人が言うには、『ゲイネタの作品を出したいんだけど、どういうものを書けばいいのかわからない。だから何かアドバイスをくれ!!』という依頼をされて書いたらしいんですよ。まぁ、私もあの同人誌を読んでみて衝撃を受けましたし、勉強にもなりました。だからこそ、もう一度同じテーマでやってみようと思ったわけなんです。どうでしょうか?協力してもらえませんか?」と聞かれたので「はい、全然構いませんよ」と答えた。すると彼女は「ありがとうございます!!それじゃあ、まずはプロット作りから始めていきましょう!!」と言ってきた。

「えっと……とりあえず、ざっくりとですけどあらすじを考えてきたんです!!よかったら見てください!!」と言われたので、渡された紙を見る。そこには大まかな流れが書いてあった。

「ふむ……これは凄いな……。とても分かりやすい」と言うと、彼女は満面の笑みを浮かべながら「ホントですか!!やったーーーー!!」と言っていた。なんかもう……子供みたいだなと思った。それから俺達は2時間ぐらいかけて、プロットを作り上げていった。

「うん、なかなかいいんじゃないか?これなら読者にも伝わりやすそうだ」と言ったら、小森さんは「ですよね!!良かったぁ~……」と安心した様子を見せていた。

「じゃあ、これで行きますか?この感じならきっとうまくいくと思うんですけど……」と言われ、俺は「そうですね。じゃあ、この感じで進めていきましょう」と答えた。

「わかりました。それでは頑張って書き上げちゃいますね!!」と言って、彼女は原稿を書き始めた。その姿を見ながら俺は思った。……こいつ、やっぱり可愛いわ。

「あのさ俺さあ、小森さんのこと恋愛対象として好きなんだよね」とサラッと言ってみたら小森さんは驚いた表情で俺の顔を見つめてくる。

「えっ、ちょっ、急に何言ってるんですか!?そ、そんなこと言われても……私は……その……。」とパニくってるが俺は気にせず続ける。

「ごめんねいきなり変なこと言っちゃって。別に返して欲しいなんて思ってないんだよ。だって俺達付き合ってないし、それに俺みたいなオタク野郎に好かれても迷惑でしょ?」と続けて言うと彼女は顔を赤くしながら俯いて「うぅ~……」とか言っている。正直めっちゃ可愛かったので、思わず抱きしめたくなったがそこは我慢する。

「だから別に返事が欲しいとは思わないんだよ。ただ、俺が伝えたいってだけなんだ。それだけだよ」と言うと彼女は「…………はい」と答えてくれた。まぁ、流石にダメかと思っていたのだがまさかOKしてくれるとは……。俺は嬉しくなってついついニヤけてしまった。すると彼女は「あっ、今笑いましたね!?」と少し怒ったような口調で言う。

「いや、笑ってないよ。気のせいじゃないかな?」と答えると彼女は「嘘です!絶対今笑ったでしょう!?もう~……本当に意地悪な人ですねぇ~……。」と頬を膨らませている。ヤバい……マジでかわいい……。このまま押し倒してもいいかな?などと考えていると彼女がこちらを見て「あの……その……ありがとうございます」と小さな声で言った。俺は「ん?何か言ったかい?」と聞き返すと、彼女は「な、何でもありませんよ!!ほら、早く作業に戻りますよ!!」と言って再びパソコンに向き直ってしまった。俺はそんな彼女の後ろ姿を見てクスッと笑うと、彼女と同じようにパソコンに向かった。

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