第9話「【誘拐・注射器の描写あり】百合誘拐」

炭酸のシュワシュワする感覚が好きだ。お腹が張ったらきついから休日以外は飲み過ぎないようにしている。それでも時々、無性に飲まないと耐えられない気分になる時がある。そんな時は我慢せずに飲む事にした。でも、そのせいで僕は大変な目に遭う事になるとは思わなかった……。

私はいつも通りコンビニに行った。

「いらっしゃいませー」店員さんの声を聞きながら私はレジ横に置いてある炭酸ジュースを取ろうと手を伸ばした……のだが。ガシッ! 私の手は誰かの手を掴んだ。私と同じぐらいか少し背が高い女の子が私を見て笑っていた。

(なっ!?)

私は驚きつつも相手の手を掴んでいない方の手に持っているスマホを見た。そこにはこの店の監視カメラの映像が映し出されていた。監視カメラは2つあったようで映像の中の私が見た人とは別の人も一緒に映りこんでいた。カメラに写っている女の人は私と同年代くらいで凄く美人だった。

(何よこの女!)

そう思っても後の祭りなので仕方ないのだけれど……。とにかくここから逃げないと!と思い急いで店を出ようとしたその時だった。私の腕には冷たい感触があった。それは注射器だ。

(うそっ?やめて!!)

そして私は何かの薬を入れられてしまったようだ。段々と体が重くなって行き倒れそうになるが何とか踏みとどまった。そして私はその場に崩れ落ちてしまう前に店の外まで出る事が出来たが、すぐに力尽きた。それからどれ程経っただろうか?意識を取り戻して周りを見渡すと、どう見ても廃工場みたいな場所にいた。そこで気がついたのだが私の服が無いのだ。その代わりに白いシャツを着せられていた。するとそこにさっき私を捕まえて来たと思われる人がやって来た。

「あぁ起きたんだね。おはよう」

そう言って来たのはさっき私に注射を打った女だった。

「ここはどこ?」

「ここは廃工場だよ。それより君の名前は?」

「なんで教えないといけないわけ?」

「だって君はこれから僕と結婚するんだよ?」

何を言っているのか分からなかった。結婚って何?意味分かんないんだけど。

「あんたが誰なのか知らないけど絶対に嫌よ!」

「まあまあ落ち着いて。とりあえず自己紹介しようじゃないか」

彼女は「佐藤直美」と名乗った。

「じゃあ次は君の番だ」

「私は……私は……」

あれ?名前なんだっけ?思い出せない。おかしいわよね?普通は覚えているはずだもの。なのに名前が出てこないなんて変じゃない。

「ちょっと待って、考える時間をちょうだい」

「分かったよ。いくらでも待つから考えてごらん」

そうして私は考えた。自分の名前を。でもやっぱり名前は出て来ない。どうしてだろう?分からない。

「駄目だわ。どうしても思い出せない」

「ふむ。じゃあもう諦めようか」

「えぇ……。諦めるしかないのかしら?」

「そうだよ。だって思い出せないものはしょうがないじゃん。それとも思い出したい理由でもあるのかい?」

「いえ、別に無いけれど……」

「ならいいんじゃないかな?無理に思い出す必要は無いと思うよ」

確かに彼女の言う通りかもしれない。それにしてもこの子意外といい奴かも。いきなり誘拐してきた割には優しいし……。うん決めた!彼女について行こう!

「ねぇあなた。私をあなたのお嫁さんにしてくれないかしら?」

「えっ?良いのかい?」

「もちろんよ!というかお願いします!!」

「分かった。よろしく頼むよ」

こうして私は彼女に付いて行く事になった。そしてしばらく歩くと一軒の家が見えてきた。そこに入ると一人の男性が居た。

「おっ!直美おかえり!ん?その子は誰だい?」

「ただいまお父さん。この子は僕の花嫁候補の一人だよ」

「ほう……。なるほどな。お前もついに花嫁探しを始めたのか。それで相手はどんな感じの子なんだ?」

「それがよくわからないんだよね。名前すら聞いてないんだもん」

「おいおい。ちゃんとした女の子を連れて来るように言っただろ?まさかまた男を連れ帰って来たんじゃないだろうな?」

「そんな訳ないでしょ!今回は女の子だから大丈夫!」

「そうか……。なら良かったぜ……。それで名前を聞いても良いかな?」

「あっはい!私の名前は吉田由奈と言います!好きな事は読書です!あとゲームも好きですね!それから……」

「あー!ストップ!そこまでで良いよ!ありがとうね。じゃあ次、由奈ちゃんの事を聞かせてくれるかい?」

私は自分が体験した事を全て話した。最初は信じてもらえなかったが途中からは真剣に話を聞いていたので多分信じてくれたのだと思う。そして話し終わる頃には夕方になっていた。

「そうか……。大変な目に遭ったんだね……。本当にすまなかった……。謝っても許してくれるとは思わないがどうか謝罪だけはさせてくれ」

そう言って頭を下げて来たので私は慌てて止めた。

「そんな!顔を上げてください!」

男性は顔を上げると、

「今日はもう遅いしここに泊まっていきなさい。部屋は用意してあるから安心してくれ。それと食事も準備しておくから楽しみにしていなさい。何か聞きたい事があるなら何でも答えるぞ」

と言ってくれたのでありがたくその言葉に甘える事にした。

次の日になり朝食を食べた後、私達は山登りに出かけた。

「お父さん。私達って何しに山に登るんですか?」と直美が尋ねて「それはね、山頂にある小屋で生活してもらうためさ」と答える男性に

「へぇ〜。そうなんですか。山小屋ですかぁ。凄くワクワクします」

と私は相槌を打った。

「そうか。気に入ってくれると嬉しいよ。それじゃあ出発しようか」

そうして私達の登山が始まった。道が険しくて大変だったが何とか頂上までたどり着く事が出来た。

「うわぁー!!凄く綺麗!!ここが目的地なんですね」

私は感動していたのだが、なぜか直美は少し暗い顔をしているように見えた。

「どうした?」と男性が心配するが「えっ?ああごめんね。なんでもないよ」と直美が笑った。

「何かあったら言ってね」と私が言うと「うん。ありがとう」と言って直美は笑顔で答えた。しかしそれも束の間。すぐに表情を曇らせてしまった。

「どうしたの?」と聞くと「えっと……実はね。ここから先は僕だけしか行けないんだよ」

「どうして?」

「ここは特別な場所なんだ。僕はこの場所を守る役目があるからさ」

「そっか……。じゃあ私はここで待ってるわ」

「うん。分かった。じゃあちょっと行って来るよ」

そう言い残して直美はどこかへと消えていった。私はしばらく待っていると、何やらヘリコプターのような音が聞こえてきた。

(なんだろう?)と思っていると、上空から何かが降りてくるのが見えた。そしてそこには直美がいた。

「お待たせ。これが僕の能力だよ」

そうして見せてもらった能力は想像を絶する物だった。

「どうだい?私の花嫁になるかい?」

「もちろん!喜んでなります!!」

こうして私は直美の嫁になった。そして直美と一緒に暮らす事になった。一緒に暮らし始めて分かった事だが彼女はかなりの変わり者だということが分かった。まず第一に彼女は機械オタクである。特にロボットが好きで暇さえあればロボアニメを見ていた。次に彼女が作る料理はとても美味しかった。なので私は彼女に料理を教えてもらい毎日のように食べた。他にも彼女はよくゲームをする。私もゲームが好きだったので彼女とよくゲームをした。彼女はとても優しくしてくれたし、私を大事に扱ってくれた。私は彼女と結婚して幸せだった。そして私は彼女と共に一生を過ごす事になる。

「由奈。起きてるかい?」と直美が話しかけてきた。

「もちろんよ。あなた」

「今日は何をして遊ぼうか?」

「そうね……。昨日はトランプで負けたから今日はリベンジマッチよ!」

「よし!受けて立とうじゃないか」

「じゃあ早速始めましょう!」

こうして私たちは一日中遊び続けた。

「疲れた……。由奈。少し休憩しないか?」

「仕方がないわね……。じゃあそうしましょうか」

私たちが休むために寝転んでいると、

「ねぇ、愛してるわ」と言ってキスしてきた。

「私もだよ」と答える。

「ふふっ。そうよね」

「ねぇ。今度デートでも行く?」

「良いけどどこに?」

「うーん……。そうだな……。海とかは?」

「いいね!行きたい!」

「なら決まりだね!」

「やったー!」

私たちの生活はこれからもずっと続いていく。そう、これからも、ずっと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る