第7話「ミニシアターにデート」
化粧、よし、服装、よし。私は今日デートに出かける。初めての彼氏。場所は映画館。彼は映画マニアで、行きつけのミニシアターがあるという。興味に行くのはインド映画で、タイトルは『ムンバイtoトーキョー』というタイトルらしい。待ち合わせ場所にはすでに彼がいた。
「ごめん、待った?」
「ううん、そんなに待ってないよ」
彼に連れられてミニシアターに入り、映画の上映を待つ。すると、上映中の映画の中から、私達の前に突然映像が浮かび上がったのだ! なんと、スクリーンには、下着姿の男女がキスをしていた!しかも生々しくて、見ているこっちまでドキドキしてしまうような、そんな光景だ。これはいったいどういうこと? そう思った矢先、彼の手が私の手を握りしめてきた。そして彼はそっと耳元で囁くようにこう言ったんだ。
「この続きを見たいかい?」
え?何を言っているの……?私が固まっていると、彼は私をじっと見つめてくる。その瞬間、頭の中に言葉が響いてきたのだ。それは、不思議な声だった。でも不思議だけど嫌な感じではない声。どこか安心感を与える声だった。
「君の人生を変えたくないかい?」
人生を変える?どういう意味?
「今から君の人生を俺が変えようと思うんだけどいいかな?」
彼の目は真剣そのもので、決してふざけている様子はない。ただ私のことを心配しているようだ。何がどうなっているのか全く理解できない。ただ一つだけ分かることがあるとすれば……。私も彼に恋をしているということ。
「私の人生を変えるって、つまりどういうこと?」
「君はこのままだと幸せになれないだろうね。だから俺が君の人生を変えようと思うんだけどいいかな?」
「なんで私は幸せになれないの?」
「それは、君が自分の本当の気持ちを隠したまま生きようとしているからだ。本当は恋愛したいと思っているはずなのにね。だから俺は君のために一肌脱ごうと思ってるんだよ」
自分の本心?分からないけど、確かに彼の言う通りかもしれない。好きな人に好きって言いたいし、恋人になりたいとも思う。でもそれを言ってしまうと今の関係を崩してしまいそうな気がして怖かった。それに、もし告白をして振られてしまったら立ち直れないだろうし。だから私はいつものように仮面を被って、自分に嘘をつくことにした。
「あなたの言ってることがよく分からないわ。どうして私のためにそこまでしてくれるの?」
「君は放っておけない子なんだよね。見てるとどうしても助けたくなるっていうかさ」
それを聞いた途端、胸の奥がきゅんとなった。まるで乙女ゲームみたいじゃない。
「私を助けてくれるの?」
「もちろんさ。だって俺達は友達じゃないか!」
彼は爽やかな笑顔で答えてくれた。それがとても嬉しかった。こんな風に言ってくれる人なんて今までいなかったもの。だからこそ、もっと彼のことを知りたいと思った。そして私は彼の手を取った。
「分かったわ。あなたを信じてみることにする」
「ありがとう!じゃあまずはあのスクリーンのようにしてみようじゃないか!」
スクリーンを見ると、そこには先ほどからの二人の男女が絡み合っている姿が映し出されていた。よく見ると、女性は自分と同じ顔をしていたのだ。ということはあれはもう一人の自分!?一体何が起きてるの!? すると彼の手が伸びてきて、私の顎を持ち上げた。そしてゆっくりと顔が近づいてきて、唇が触れ合った。その瞬間、また言葉が頭に響いてきた。
「これが君のファーストキスだよ」
頭がくらくらする。もう何も考えられない。
「これで君の運命が変わったよ」
彼は満足げに微笑んでいた。その笑顔を見た時、なぜかすごくほっとしたんだ。ああ、よかった。これで自分は救われたんだって思った。きっと彼は私にとってヒーローみたいな存在になるんじゃないかなって。そう思うだけで幸せな気分になった。
こうして私は彼と改めて付き合い始めた。それから1ヶ月後、私たちは結婚をした。結婚式ではたくさんの人がお祝いしてくれた。みんなとても嬉しそうな顔をしていた。そして新婚旅行先に向かう飛行機の中、隣の席に座っている彼が話しかけてきた。
「ねえ、君はどうしてあの時OKしたの?」
「だってあなたが好きなんだもん」
「へぇー意外だね。俺はもっとクールな性格の子を選ぶと思っていたけど……」
「まあ確かに最初は少し冷めていたかも。でも今は違うわよ。あなたのことが大好きですもの」
「ありがとう。じゃあさ、もし僕が浮気したらどうする?」
「もちろん許さないわ。絶対に別れる」
「即答だね(笑)そういうところ好きだよ」
「ふふん♪私も好きですよ〜」
私たちの結婚生活はとても幸せだった。毎日笑顔が絶えなくて、喧嘩もほとんどしなかった。本当に幸せな日々が続いた。そんなある日のことだった。いつものように仕事を終えて帰宅しようとしていたとき、いきなり後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこにはスーツを着た男性が立っていた。男性は爽やかな顔立ちをしており、背丈が高くてスタイルも良い。年齢は30代半ばくらいだろうか。見覚えのない男性だったので、おそらく初対面だろう。しかし、なぜか胸騒ぎがしてならない。
「すみません、どちら様でしょうか?」
「初めまして、僕はこういう者です」
そう言って名刺を差し出してきた。その名刺を見てみると、「株式会社ミザッチネ」と書かれている。聞いたことのない会社だが、一体どんな仕事をしているんだろうか?疑問に思いながらも話を続けることにした。
「それで何か御用ですか?」
「単刀直入に言いますと、あなたにはこれから異世界に行ってもらいたいのです」
……はい?今なんて言った?異世界に行くって聞こえた気がしたが気のせいだよな?きっと聞き間違いに違いない。もう一度聞いてみることにした。
「すいません、よく聞こえなかったのですが……もういちどお願いします」
「わかりました。それならはっきりと言いましょう。あなたには異能力を持ってもらって、異世界に行き、魔王を倒してきてもらいたいんです」
はい?また変なことを言い出したぞこの人!まさかとは思うが、最近流行りのアレなのか!?だとするとかなりやばい状況じゃないか!!ここは冷静に対応しなきゃ!
「ちょっと待ってください。急にそんなこと言われても困ります!!」
「そう言われましてもこちらも事情がありまして……。とりあえず詳しい話は向こうで話しましょうか」
そう言うと男は私の手を取り、強引に引っ張ってきた。その様子を見ていた夫が男の腕を取った。
「彼女から離れろ!」
夫はそう叫ぶと、男はため息をついたあと夫を睨んだ。
「お前は何の権利があって俺の行動を制限するつもりなんだ?」
「何言っているんだ。彼女は僕の大切な妻だ。勝手に連れて行かれたらたまったものじゃない」
「そうか……。ならば仕方がない。力ずくで連れて行くとしよう」
次の瞬間、男の体が光に包まれたかと思うと、一瞬にして姿が変わってしまったのだ。その姿を見た私は思わず固まってしまった。なぜならそこにいたのは、巨大なドラゴンの姿だったからだ。しかもその大きさはかなり大きくて、私の身長を優に超えている。こんな化け物と戦えるわけないじゃん!!!
「うわあああん!」
夫は腰を抜かして尻もちをついた。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったな。大人しくついて来い」
「いやあああ!」
私は連れ去られた。その後、私はとある場所に監禁された。そこは真っ暗な部屋だったが、なぜか私の体ははっきりと見えた。不思議に思っていると、男が話しかけてきた。
「君にはここでしばらく生活してもらうことになる」
「どうしてこんなことをするの?」
「それは君の持っている力を有効活用するためだ」
どういうことだろうと思っていると、目の前にスクリーンが現れた。そこには自分の姿が映し出されていたのだ。
「これは何!?」
「これは君が見ている映像をそのまま映し出しているものだ」
「えっ、じゃあ私が見たものは全て知っているということ?」
「そうだ。だからここに来てからずっと君の行動を観察していた」
「そんなの信じられるわけ……」
「もっとお互いのことを理解し合おうじゃないか」
「確かにそうね。わかったわ。じゃあ次は私からの質問ね。あなたはどうして私を選んだの?」
「君はとても明るい性格をしている。それにポジティブな考えを持っている。君の笑顔を見ると元気になれる。そういうところに惹かれたんだよ」
「ありがとう」
私は男に褒められてとても嬉しかった。そして、この人の役に立てるのなら何でもやってあげようと思った。それからというもの、毎日が楽しくなった。
「ねえねえ、何か面白いことはないの?」
「それならゲームをしてみるかい?」
「うん、やるやるー」
「よし、じゃあやろう」
私は次第にあの夫のことを忘れてしまっていた……。
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