第2話「ガラガラヘビ」

ガラガラヘビがやってくる

お腹を空かせてやってくる

あいつらはグルメじゃない

なんでもペロリ

……っていう歌があったなあ。ま、こいつらの場合は違うんだけどねー。

「ふえぇ……っ!もう、無理ぃ!」

俺のベッドに寝転びながらスマホで動画を観ていた女の子は、顔を両手で覆い隠しながら大声でそう叫んだ。そしてそのまま勢いよく立ち上がり、部屋から出て行ってしまったのだ。…………うん、こればっかりはどうしようもないよね? というかむしろこの状況に対して「どうすればいい?」って感じですよね!?いやまぁ普通ならこの女の子を追いかけるべきなんだろうけどさ、そんな勇気ないんだもん! だからここはひとまず放置するしかないんですよ。うん、分かってますとも。だけどこのままだと気になって眠れないんだよぉ!!……なんてことを心の中で叫びながらも結局俺は布団に入って眠りについたわけでして。朝起きるとそこには女の子の姿はなかったし……うん、夢だったんじゃないですかねぇ。

「ふぅ……なんとか間に合った」

学校に行く準備を終えた俺は、いつものように玄関から外に出た。今日も天気が良くて絶好のお出かけ日和だな。

「おっす。おはよう」

「おはよ~。今日もいい天気だねぇ」

一緒に登校していた友達2人に挨拶をして、それからゆっくりと歩き始める。しかし今日も平和だなぁ……。昨日のことは夢だったんじゃないかと思うくらいだぜ。

「あのさぁ……」

「ん?」

「お前なんかあったのか?」

いきなり変なことを聞いてきた友達A。彼は心配そうな顔をしながらこちらを見つめてくる。その隣にいるBもまた同じような表情をしていた。

「なんかって何がだよ」

「いやだってさ、今日のお前なんかおかしいじゃん」

「え、そ、そうかなぁ……?」

「そうだぞ。授業中ボーッとしてる時が多いし、休み時間になるとすぐにどっかに消えるしさ」

Bの言葉を聞いた俺はギクリとする。確かに今朝の夢のせいでいろいろと考え込んでしまったせいか、全然授業の内容を覚えていないし、休み時間はトイレに逃げていたからなぁ。

「まぁ別に言いたくないなら言わなくていいけどさ。でもあんまり抱え込むなって」

「う、うん……ありがとう」

俺のことを心配してくれているらしい友人達に感謝しながら校門を通り抜けたところで、突然誰かに肩を掴まれた。ビックリした俺は反射的に振り返るとそこにいたのは……

「あ、あれ?委員長?」

「おはよう。ちょっとあなたに相談したいことがあるんだけど、少し時間を貰えないかしら」

「え?相談?それってどういうこと?」

「それは後で話すわ。とりあえず今は私についてきてちょうだい」

それだけ言うと彼女はクルっと方向転換して校舎に向かって歩いていった。一体なんなんだ?相談があるとか言ってたけど、それにしても様子がおかしかったような気がするんだけど……。

「おい、行くのか?」

「あぁ……一応ついて行ってみることにするよ」

教室で待っていてくれと言っておいた友達Aに声をかけてから俺は彼女のあとを追った。そして1階の空き教室までやってきた俺たちは向かい合うように椅子に座って話を始めた。

「それで委員長。相談というのはなんのことなのかな?」

「……あなた昨日の夜、私の家に来たでしょ」

「へっ!?きゅ、急に何を言っているんですかねこの人は……」

「誤魔化さないでくれる?私はあなたのことをずっと見ていたんだから」

「……マジですか?」

「マジよ。だから知っているわ。あなたが昨夜うちに来ていたことも、そしてあなたが私のベッドで寝ていたこともね」

……はい?ちょ、ちょっと待ってくれ。委員長の家に行ったって……え、どゆこと?

「……もしかして覚えてないの?」

「……すみません。全く記憶にございません」

「そう……やっぱりそういうことだったのね」

はぁ……とため息をつくと彼女はジト目になりながらこちらを見てきた。

「つまりあなたは私がどんな思いを抱いていたかも知らないまま家に上がり込んだ挙句、人のベッドを占領して爆睡していたというわけね」

「え、えぇとですね……はい」

「呆れた。これじゃあ怒る気にもならないわ」

「す、すいませんでした」

「もういいわよ。過ぎたことだもの」

そう言うと彼女は再び深いため息をついた。

「だけどあなたには罰を受けてもらうわよ」

「ば、罰ですか……?」

「そうよ。これはれっきとした犯罪行為だもの」

犯罪者呼ばわりされた俺はガックリと項垂れる。そりゃあそうだよね。何も悪いことをしていない女の子の家に勝手に上り込み、しかもその子のベッドでぐーすか眠っていたんだから。むしろお咎めなしの方がおかしいってもんですよ。

「あのさ……ちなみにだけどどんな罰を受けることになるのかな?」

「そんなの決まっているじゃない。私と付き合ってもらうわよ」

「……はい?今なんて言った?」

「だ・か・ら!あなたとは恋人同士になるって言っているの!」

「……はぇ?」

俺がポカンとしている間も委員長は顔を真っ赤にして怒り続けていた。

「もう!どうして分からないのよ!!」

「だってあまりにも唐突過ぎるというか、そもそもなんで俺なんかと付き合いたいと思ったんだよ」

「そ、それは……その……あなたが好きになったからよ」

「好き!?」

「そうよ!!私はあなたのことが好きなの!!分かった!?」

「お、おう……」

あまりの剣幕に思わず気圧されてしまった俺はコクコクとうなずいた。すると彼女はホッと胸を撫で下ろしたのか、落ち着いた様子で口を開いた。

「それなら良かったわ。もし断られていたらどうしようと思っていたところだったし」

「でもさ……それっていわゆる吊り橋効果ってやつなんじゃないのか?」

「違うわ。確かにきっかけはあの事故だったかもしれないけれど、その後一緒に過ごしていくうちに本当にあなたに惹かれていったの」

「そっか……」

「あの……どうかしら?私と付き合ってくれますか?」

不安そうに尋ねてくる彼女を見て俺は思った。あぁ、こんな風に言われちゃったら答えは一つしかないじゃないか。

「うん。いいよ」

「ほ、本当!?」

「あぁ。よろしくお願いします」

そう答えると彼女はパァッと明るい笑顔を浮かべ、勢いよく立ち上がった。

「ありがとう!!これからよろしくね!!」

「こっちこそよろしく頼むよ」

こうして俺は彼女と交際することになった。

委員長と恋人関係になってから1週間ほど経過したある日、俺は彼女と下校していた。いつものように他愛もない会話をしながら歩いていると、突然彼女が立ち止まった。

「ねぇ、ちょっと寄り道していかない?」

「ん?別にいいけどどこに?」

「ふふん、内緒♪」

悪戯っぽく笑う彼女に連れられるようにしてやってきたのは小さな公園だった。彼女はここの大きな滑り台に登った。

「ねぇ、来て!」

俺は言われた通り彼女についてきて滑り台を滑った。一番下までくると前の彼女が振り向いて、唇を重ねた。その時間は一瞬で、彼女はすぐに前を向いて走り去ってしまった。

「ふえぇ……っ!もう、無理ぃ!」

夜、俺のベッドに寝転びながらスマホで動画を観ていた女の子は、顔を両手で覆い隠しながら大声でそう叫んだ。そしてそのまま勢いよく立ち上がり、部屋から出て行ってしまったのだ。……うん、これはまあ夢ですよねえ?夢の中だから彼女を追いかけても追いかけなくてもどっちでもいいってことですよねえ?あっ体を動かせる!俺は彼女を追いかけた。女の子に追いついて顔を確認すると全然知らない人だった。

「あ、う、うん帰っていいですよ」

「うわあああん!」

彼女は泣きながら走り去っていった。

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