第2話 ライブチャット

 彼女はビクトリア・リード(仮)。アメリカのポルノ女優で、金髪に青い目。全体に華奢な感じで寸胴。まさに妖精。背中に30センチくらいの十字架のタトゥーがあった。最初見始めた頃の年齢は22歳だったと思う。俺は長年その子のファンで、Twitterにツイートがあるのを地味に楽しみにしていた。8年くらい応援していた。ただし、お金を全くかけずに。本人のTwitterによると、どうやら結婚もしたらしい。旦那の写真もあった。ごく普通の人みたいだった。彼がどう思っているか知らないけど、俺は嫉妬なんかしなかった。相変わらず彼女が好きで、同じビデオを繰り返し見ていた。


 彼女は引退したのかもしれないけど、相変わらず動画はネット上に残っているし、彼女がずっと現役のように錯覚していた。デジタルタトゥーという言葉があるけど、ネットの海からは完全に消し去ることはできない。俺も彼女に関するビデオや写真は、全部データで保存してある。俺みたいなのが世界中に何万人といるだろう。日本で性産業に従事している人に偏見があるように、海外でも同じだろうと思う。だから、もう子どもがいるからやめたいと思っても、ネット上に動画が出回っている。

 でも、欧米の人は急激に容姿が変わるから、案外わからないかもしれない。


 ***


 俺は彼女が今でも好きで、半年ほど前に、久しぶりに検索したら何と出てきた。Twitterもインスタもあった。彼女はいくつなんだろう?もう30代だと思うけど。写真は昔のままだった。新しい写真もあって、俺は彼女が戻って来たと歓喜した。

 俺はすぐにDMを送った。「日本のファンです。今はどんな活動をしてるんですか?」と。


 彼女から返信があって、今はライブチャットしかやってないということだった。


 料金を聞いたら許容範囲だったから、人生初のライブチャットをすることになった。はっきり言って、お金がもったいなかったけど、彼女にいいところを見せたかったんだと思う。


 ✳︎✳︎✳︎


 金はPaypalで振り込み済み。わくわくしながら、その時を待つ。俺は取り敢えずメガネをかけてマスクをした。録画されて恐喝されたり、ネットに上げられたら困るからだ。


「ハーイ」女が出て来た。ただの太ったおばさんだった。年齢も40過ぎていると思う。痩せればきれいかもという感じだけど、随分老けていた。腹はセラライトで凸凹。胸も垂れてて、子どものいる人らしかった。金髪の白人売春婦。

「君は誰?」

「ヴィクトリアよ」

「別人に見えるけどね」

「本人よ」

「背中見せて」

 彼女は後ろを向いたが、タトゥーがなかった。その女は両腕にびっしりタトゥーが入っていたけど、背中は何もなかった。

「君は違うよね」

「本人よ」

「いいよ。別に怒ってるわけじゃないから」


 そこから俺は普通の客として、そのおばさんとライブチャットをやった。不満だらけだったけど、人生初だったから、面白い経験ではあった。しかも、英語で。改めて英語をやっててよかったと思った瞬間だった。




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