文明の違い
たどり着いて見た帝国は、ヴェルマニア王国とは何もかもが違い、二人は軽くカルチャーショックを受けた。
剣や馬車よりも魔道具が発達した帝国は、魔石を使った機械が発達しており、馬がなくても走る車や、魔石で動くオートモビルという乗り物が町中に溢れていた。皆が皆、貴族のように小綺麗な身なりをしており、荷馬車を引く商人は見当たらず、カフェイと呼ばれるお店がそこかしこにあった。店内でお茶や食事を楽しみ、路上にも丸テーブルや椅子を出し、パラソルで日陰を作り、老若男女が会話を楽しんでいた。そこには貴族のしきたりや、平民との隔たりすら無い様に見えた。
貴婦人が軽装でスケルウェイという、魔石で動く二輪の乗り物に足を揃えて立ち乗りし、スイスイと滑らかな街道を行く様を見て、エリザベスは危うく叫ぶところだった。街灯が等間隔で街道に設置され、夜になると明るく輝くのだと説明された。それぞれの家にも小型の物が天井に設置されているのだとか。夜遅くなっても煌々と光り、ますます賑わいを見せる街を見て、日暮とともに静まり返る母国とは何もかもが違うと愕然とした。王都の工業地区にはモクモクと煙を吐き出す怪しい塔があり、街道はどこまでも滑らかに舗装されており、ハルバートとエリザベスは言葉をなくした。
帝都観光を楽しんだ数日後、迎えられたオートモビルに乗り込むと、拡声器で様々な町のありようなどの説明を受けながら王宮までの道をただ目を見張らせた。馬車のような振動もなく、滑るように風を切って動く乗り物に感嘆の声を上げる。
オートモビルにも飛行船と同じように魔石が組み込まれており、魔力を通すことで動く乗り物だと知り、スケルウェイは魔石屑を使い魔力の少ない人でも平民でも簡単に使える乗り物だと知った。オートモビルは国が定めた契約者だけが保持しているが、スケルウェイは国が貸し出し、誰もが乗れるのだとか。馬車ほど速くは走れない様だったが小回りが効くし、何より魔力を注ぐだけで動く。そこかしこに駐輪場があり、道端に停められたスケルウェイは一定の時間が経つと帰巣システムが発動し、最寄りの駐輪場まで自動で戻るらしい。どういう機能なのかさっぱりわからなかったが、とにかくものすごい魔道具なのだということはエリザベスにも理解できた。
「ハルバート様、このオートモビルやスケルウェイが王国にあったら、視察も簡単にできますわね」
「我が国は小さいから数日で視察も終わってしまうかもしれないね」
「まあ、そんなに小さくないでしょう?」
「帝都だけでも我が国はすっぽり収まってしまうよ」
帝都とその近隣の街を含めると、300万人弱が住んでいるという。ヴェルマニア王国の総人口が収まってしまう大きさだった。エリザベスは笑えない、と口をつぐんだ。
工業地区にある煙が立ち上がる建物はチムニといい、そこで生活に必要な魔石を加工しているのだという。魔力の通らなくなったクズ石は細かく砕いて舗装に使うのだとか。整えられた街道がどこかキラキラしているのはそのせいだろうか。
郊外の農業地区に行けばガラスでできた温室が立ち並び、そこで野菜や花は育てられ、家畜は大きな家畜小屋の中で餌と水を与えられ太らせるから、そのための牧場などは要らないのだと説明を受けた。
「それでは牛や鳥は自由がありませんわね?」
「かわいそうだが、効率的なのだろうな。帝国は大きいから、そうしないと食物が足らなくなるのだろう」
そう考えると、牧歌的な風景がここそこで見られるヴェルマニア王国の方が好ましい様に思えた。エリザベスは羊の群れを連れて歩く
そうこうしている間に王城に迎え入れられ、さまざまな国の人々と親交を深め有意義な日々を送り、あっという間に数週間が過ぎた。その頃にはエリザベスもハルバートも大分帝国の暮らしに慣れ、国に帰ったら早速交易を広げ、もっと近代的に暮らしを整えていこうと近隣の国の大使たちとも話し合うことができた。だがその為にも特産品を作ることが先になり、その特産品を作るために、作物の発育促成や農土の拡大化を図らなければならないだろう。さらには、貨物船やできれば飛空艇なども頭に入れておかなければならない。帝国に追いつくには何十年も先になるだろうし、他国との流通も何年かかるかわからない。
ハルバートを支えなくては、とエリザベスも気合を入れ直した。
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