第8話 依頼主
僕はアキに言った。
「この前仕事用のアカウントに来た相談メール、見た?」
「どれのことです?」
「学内の三回生の女生徒から来た、友達の様子がおかしいって相談」
「ああ、大学の授業に来なくなってしばらく会わなかった子が急に連絡してきたってやつですか?」
「そう、連絡してきたその子が、なんていうか強迫観念がつよくて、何かの被害者のような話し方をするんだ」
「何かの被害者?なんです、それ」
「メールからだけだとわからないな」
そして僕はこう切り出した。
「僕はカルにこの件を手伝ってほしいんだ」
アキは目を丸くする。
「先輩…」
アキが何か言おうとしたけれど、僕はそれを遮るように言った。
「もう一回カルに聞いてみる。もし、断られるならそれでいいさ。でも、本人にも気づかない動機だってあるだろう?」
アキは僕をしばらく見据えたながら、持っていた本を机に置いた。立ち上がり、彼女は僕に近づく。ヒールを履いているから目線は僕より、ほんの少し低いぐらいの位置だ。
普段の天真爛漫な彼女からは想像しづらい、低くて妙に艶がある声で言った。
「後悔しないんですね?」
僕は即答した。
「しないよ」
僕はこの時、アキの言う事をもっとよく考えるべきだった。そうすれば、この事件にカルが巻き込まれることはなかったのだから。だけれど、この時の僕は底なしの阿呆で、どうしようもない愚図だった。今にして自分を責めても、やはり仕方がないのだけれど。
「それで、その依頼主と問題の子はなんていう名前なんですか?」
普段、人の名前を覚えない方だが、なぜかこの時は二人の名前を覚えていた。僕は答える。
「依頼主は
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