Ⅱ - Ⅳ レイチェルおかえりなさいの会
久しぶりに我が家に帰宅したレイチェルを迎えてくれたのは、意外にもオリスだった。
「あんたが帰ってくるから、今日はパーティだってさ。」
オリスはそっけない言い方をしていたが、彼のベルトには、以前彼女がプレゼントで送ったプレートが付けられていた。「なんだかんだ、気に入っているじゃない。」と彼女は言ってニヤッとすると、その無愛想な少年の頭をくしゃっと撫でた。
自宅に入ると、突然クラッカーがなり「レイチェルおかえり」という旗が見えた。何も、夏休みの一時帰国だといいのに、大袈裟だなと思ったが、こうして心配性な両親が準備してくれたことに、レイチェルは嬉しくなった。
このパーティには両親だけでなく、オリスとその家族も出席していた。
「あれ?コニーは?」
レイチェルが尋ねると、ちょうど「ただいま。」と言って、大きな荷物を抱えたコニーが現れた。先ほどまで仕事をしていたようで、慌てて帰ってきたのだ。
「レイチェル、おかえりなさい。プレゼント、本当にありがとう。」
そう言って、彼は新品に交換された紐をチラッと見せた。それを見て、レイチェルは笑顔になった。
役者も揃い、早速パーティが始まった。レイチェルの両親と、オリスの両親が楽器を片手に、オリジナルソング「レイチェルおかえりなさい」を歌った。リズミカルな太鼓の音に、縦笛の優しい音色、オルガンのポップな音色を、マラカスの陽気な音がサポートし、素敵な音楽に仕上がった。ボーカルは彼女の父親であったが、歌詞がなんとも言えないくらい恥ずかしいものだった。
「あぁ、私の愛しい娘よ
立派に育って今じゃ
綺麗なお嬢さんだ
可愛い可愛い娘は
綺麗なお嬢さんだ」
それを大人たちが合唱する。それを聞いて、オリスは軽く鼻で笑ったので、すかさずレイチェルが軽く肩をぶつけた。「悪かったよ。」と彼は謝った。するとオリスの父親が「ほれ!お前たちも歌わんかい!」と誘った。案の定、オリスは拒否したが、コニーが一緒に歌い始めた。
「綺麗はお嬢さんだ」
そのフレーズを彼が口にすると、自然と鎮まり、彼らの両親は途端に冷やかした。
「そういえば、コニーももう18だろう。そろそろ、彼女の一人は欲しいと思わないのかね。なぁ、この際レイチェルはどうだ?」
「そうだな。コニーならこちらとしても安心だな。」
豪快な笑いと共に、父親たちは酒を飲み干した。長年の付き合いゆえに、どちらも信頼できる息子、娘であった。しかし、それを聞いたコニーは、まるで乙女が恋したかのように頬を赤らめたので、すかさず父親らに冷やかされた。「男のくせに、顔真っ赤にしやがって。」と笑顔で、息子の背中をどついた。
そんなやりとりを見て、レイチェルは恥ずかしくなって下を向いた。ずっと良い兄だと思っていたコニーを改めて「一人の男」として意識してしまったからだ。サラサラな深緑色の頭髪も、同色の優しげな瞳も、スラリとした体型とそれに見合わない力強さも、世話焼きなところも、全てが愛おしく感じたのだ。
恥ずかしくなった彼女は、近くにあった紅茶を一気に飲み干したので、周りの大人は面白がって笑った。それをただ一人、つまらなそうに見てたのはオリスである。ちやほやされた兄に嫉妬でもしたのか、机の上に座り、行儀悪く足をぷらぷらさせていた。
こうして「レイチェルおかえりなさいの会」は無事終了した。今日は”タピオ”中のどの家にも負けないくらい、楽しいひと時だった。レイチェルはだいぶ久々に使う愛用のベッドに潜り込み、パーティをなん度も振り返った。家族とは、こんなにも暖かい存在なのだと、改めて知った。そのままレイチェルは自然と眠りに落ちた。
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