Ⅰ - Ⅷ ヒンデンブルク家の屋敷

 列車を降りると、綺麗に整備された小道が伸びていた。そこをまっすぐ進むと、大きな屋敷が見えてきた。西洋風の建物で、白をベースにした清楚な建築物である。


門の前には護衛が2人立っており、どちらもプレートアーマーを着用している。

3人が近づくと、彼らは警戒した。


「何者だ。何用でこちらに参ったのだ。」

「私たちはヘイムダル魔法学校の生徒です。聖者ヒンデンブルク公にお会いしたく参上致しました。」


ミラが落ち着いた声音で説明した。しかし、2人の護衛は眉を潜めた。少女3人が何故に聖者に用があるのだろう。新たな反逆だろうか。槍を握った手を一層強く握りしめた。


「彼女らは時期王候補だ。通してよろしい。」


聞き覚えのある声が、アイリーたちの背後から聞こえた。

プレートアーマーで身を覆い、ヘルメットを被っているため、顔がわからなかった。


その騎士は白馬から降りると、ヘルメットを脱いだ。


「ですが、アインハード隊長…」

「リアム・デ・ラ・セルダ、ウルリック・フォン・ハッセル。ヘルメットを取れ、少女たちに威圧的ではないか。」


合図があると2人はヘルメットを脱いだ。


リアムと呼ばれた男は、身長170センチ前半ほどの小柄で、短い前髪と腰まで長い金髪が、兵士とは思えぬ美しさであった。瞳はブルーグリーンであり、穏やかさに満ちている。


対照的にウルリックと呼ばれた男は、身長190センチを超える長身で体格が良い。栗色の髪を短く刈り上げ、同じ色の顎髭とグレイの瞳は威圧的である。


「時期王候補者でしたか。これは失礼いたしました。」


ウルリックは長身を折り曲げた。アインハードは自身の馬を部下に預け、3人を屋敷に招き入れた。


4人の姿が屋敷に消えると、小柄な青年は私語をした。


「あんなに幼い少女が時期王候補だなんて、預言者もお人が悪い。」


世界の使命を若い少女が背負うことに、同情をせずにはいられなかったのだ。


それを聞いた巨体の青年はヘルメットを被った。リアムの同感であったが、無闇に口に出す性格ではなかった。


彼らはアインハードの部下ではあるが、年長であった。5年前アインハードが聖者になってから、直属の部下として配属された。


リアムは、ラ・セルダ伯爵家の次男であり、18歳の頃から魔法国防省防衛隊に配属され、主に“ホーラ”の治安維持を中心に活動していた。


ウルリックは貧乏貴族だったが、22歳で入学試験に合格し、魔法法務省調査官に所属、裁判に必要な情報収集をしていた。


どちらも若く優秀であることから、アインハードが聖者となる時に、直接声をかけてきたのだ。


「リアム・デ・ラ・セルダには防衛隊として培われた護衛力を、ウルリック・フォン・ハッセルは調査官として高く評価された正義感を、どうか私に貸して欲しい。」


こうして2人はそれぞれの部署を退き、聖者近衛隊に所属することになった。


聖者近衛隊は“ホーラ”のみに存在する護衛部隊であり、代々聖者に仕えてきた。

アインハードらロイス家は、もともとヒンデンブルク家の直属の騎士であったが、エルベアドが聖者となってからは、ロイス家そのものが聖者近衛隊も担うようになった。


もちろんアインハードも例外でなかった。生まれてすぐに近衛隊としての技術を学び、聖者に仕えていた。


しかし驚くことに5年前に、この烏色の頭髪の忠実な騎士は、聖者に選ばれてしまったのだ。

“護る立場”から“護られる立場”になってしまったのだ。


しかし護られることが性に合わなかった青年は、引き続き聖者近衛隊としてエルベアドの守護を続けていた。


ただ彼も聖者であるため、守護者をつかなければならず、打開策として「ともに守護する騎士をつけておくこと」を条件に、貴族らは納得した。それがリアムとウルリックであったというわけである。


「俺たちはただ、隊長について行くしかない。」


ヘルメット越しの声はこもっていたが、それを聞いた小柄の騎士も頷き、ヘルメットを装着した。


後どのくらい、隊長と共にできるだろうか。

若いながらも、将来に目を向ける忠実な部下であった。



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