Ⅰ - Ⅳ ”チャーミング”

 食事は小さな煙突が特徴的な“チャーミング”というお店で済ました。そこも学生がこぞって通うお店で、店内は上級生から下級生まで幅広く食事をしていた。


「2、3分待つことになりますがよろしいですか?」というウェイターに対し、アイリーとレイチェルはミラを見た。「お嬢様は待つことが嫌い」という偏見があったのだ。


その意味を察して、ミラは赤面すると「大丈夫です。」と単語を区切るように発音した。


ウェイターが去るとミラが「むしろレイチェルのお腹は我慢できるかしら。」と付け加えたので、レイチェルは恥ずかしそうにした。その様子を見てミラとアイリーは笑った。


席につき食事をする間、3人は自分の生い立ちについて話した。


「私はヴァルモーデン家の長女として生まれて、魔法をはじめとした様々な学問を勉強したわ。」

「え?でも学校は最近入学したじゃない。」


アイリーが困惑した表情を浮かべていった。するとミラは珍しく丁寧に説明した。

13歳から魔法学校に入学するのは一般市民たちであり、ミラのような貴族出身の子供は6歳から、英才教育として初等魔法学校に通うのだ。


「もちろん、さっきの下衆も通っていたはずよ。それでいて、どうしてあんなに頭悪く育つのか。全く親の顔が見てみたいわ。」


そう言って彼女は、明らかに皮肉めいた表情を浮かべた。


次にレイチェルが自身のことについて話した。


「私の両親は洋裁師なの。毎日色んな人の服を作っているのよ。特にお祭りの時なんかは、衣装作りで大忙しなんだから!」


彼女のワンピースは全て母親に作ってもらったものらしい。仲良くなった記念に、今度二人の服も作ってもらうよう、頼んでみるとのことだった。


最後はアイリーだ。


「私は鍛冶屋。昔は刀剣がメインだったのだけど、最近は包丁がほとんどね。私も時々鍛冶場に行ったり、市場を手伝ったりしてたの。」


その話を聞いてレイチェルとミラは驚いた。女の子なのに、小さい頃から力仕事をしていたからである。しかし、そのことを楽しそうに話すアイリーを見て、彼女たちはそのことを口にすることはなかった。


その話をした後、不意にアイリーは下を向いた。


「そんな生活がこの先も続いて、平和に暮らしていけるのかと思ったら、まさかこんなことになってしまうなんて。しかも、ちっとも魔法が使えないんだもの。両親に合わせる顔がないよ。」


落ち込んだ彼女をミラが諭した。


「誰でも最初から何でもできるわけではないわ。できないことはこれからできるようになれば良い。まだ始まったばかりなのに、弱音を吐いてどうするの。」


レイチェルも同感だと言った。お互い時期王候補生でライバル同士だが、それ以上に仲間なのだ。一緒に乗り越えていけば良い。


2人の力強い励ましに、アイリーが顔を上げる。それと同時に料理が運ばれ、3人は食事に夢中になった。



話は変わり、時期王候補についてになった。アイリーはそもそも王について知らないため、この世界“ヴァスドル”について聞くことにした。


「この世界は元々ひとりの神様がお創りになったのよ。そして5つの国に分けた。その後、神様は自分の力を二つに分けたの。それが、現在の王様と予言者ってわけ。」


「予言者?」

「王様の影になる存在と言われているわ。といっても公の場には出てこないし、予言することだけが使命だから、本当に神様の化身なのか疑問はあるけれど。」


その預言者は王の力が弱ってくる頃に、新たな王の予言をするのだ。その予言により新たな王が誕生する。


「予言者は後継者とかいないのかしら?」

「そうね。私たちも良く知らないけど、王様と同じなんじゃない?」

「へぇ」


初めて聞く話ばかりだった。向こうの世界で聞いていた歴史は、どうやら改善する必要があるようだ。


「それから聖者について知りたいのだけれど…」

「あらもうこんな時間!門限になっちゃうわ!」


ミラが時計を確認して慌てて支度をする。周りの学生は上級生なのか、まだお喋りに夢中である。


3人は会計を済ませると、駆け足で寮に戻った。

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