Ⅰ - Ⅲ ”クララの秘密箱”

 アイリーたち3人は商店街に来た。するとレイチェルが、一枚のメモ帳を取り出した。


「コニーたちにプレゼントを渡そうと思って、下調べしてきたの。」


入学祝いに来てくれたふたりに恩返ししたい、と彼女は言う。隣国“タピオ”は、決して近い距離ではない。こちらに来るのに、交通費もかかるだろうし、何より忙しい合間をぬって来てくれたのだ。とても感謝していた。


下調べによると、コニーには紐状のネックレス、オリスにはプレートキーホルダーを考えている。どちらも“クララの秘密箱”という雑貨屋で販売しているらしい。


「オリスには名前を掘ってあげたいのはわかるけれど、コニーにはなぜ紐なの?」


アイリーが不思議そうに聞いた。するとレイチェルは自分の“宿るもの”を取り出した。親指サイズの縦笛はシルバーでできていて、繊細な彫刻が施されている。レイチェルは、その縦笛を擦りながら話した。


「“タピオ”では、音楽は人々を幸せにする魔法と言われているの。そのためこの国では、多くの人が楽器をモチーフにしたものを“宿るもの”にすることが多いのよ。私の地域の場合は笛が多くてね、コニーも笛なのよ。」


レイチェルが“タピオ”にいた頃、彼の縦笛の紐がボロボロなことに気づいた。新しくしないのか、と問いかけると「自分はこれを気に入っているから。」と答えたそうだ。


しかし、実は当時コニーたちの家の収入が右肩下がりになっていた時期であり、生活が困難になっていた。そのため、替えるための資金がなかったのだ。

実際コニーは学校に通ったことがない。学校に行くお金がなかったからだ。そのため、彼は家族や親戚、図書館等で独学して、日常生活を送っていた。


現在コニーは18歳、オリスは10歳である。そのため、コニーも成人として働いているため、家系の収入は安定してきている。


そんな苦労ばかりしてきたコニーのために、レイチェルが考えた贈り物は、アイリーとレイチェルを感動させた。


「それなら私たちも、一緒に選ぶの手伝いましょう。最高のものを選んであげなくちゃ!」


ミラがいう。アイリーも同感だった。


 “クララの秘密箱”は商店街の交差点の真ん中にあった。比較的手頃な価格の商品が多いことから、魔法学生の人気スポットの一つとして有名である。


店内は整理整頓されていて、商品を探しやすかなっていた。すぐさまオリスのためのプレートを見つけた。それを持って、レイチェルは名前を掘ってもらうようお願いした。


店主クララはふくよかな体型の50代の女性である。茶色の髪を一つに束ねた、陽気な性格の人だった。


「彼氏の名前かい?」

「いえ、弟です。」


即答であった。そのあまりの速さに、アイリーとミラは笑った。

名前を掘ってもらっている間に、コニー用の紐を見つけ購入した。デザインは地味なものであったが「派手なものにしたら、彼が困るだろうから。」といった。


店主クララが出来上がったプレートを持ってきた。正しくは、浮遊させてレイチェルの元に届けた。銀色のプレートに“オリス”と掘られ、ポールチェーンがついている。


「いいものを選んだね。少年は、こういうメタリックなものを結構好むんだよ。」


クララがそういった。

会計の際、初めて来た人には割引しているとのことから、下調べの値段よりも安く購入することができた。


「私に付き合ってくれてありがとう。」


近いうちに郵送してもらうよう、手配する予定だ。


ひと段落ついたためか、レイチェルはお腹を鳴らした。赤面しながら「ご飯も付き合ってもらえませんか?」というと、アイリーたちは笑いながら承諾した。

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