第二章「問題」

Ⅰ「魔法学校」

Ⅰ - Ⅰ 授業

 アイリー、レイチェルとミラは寮でも同じ部屋だった。部屋は思いの外広く、ホテルのようだ。


シングルベッドが3つと、大きなテーブルが1つ、ドレッサーが1つ、シャワールームとトイレがある。衣装ダンスはなく、収納部屋が別にあった。


3人はそれぞれの荷物を整理した。洋服等を収納し終えると、ミラは先ほど教室でもらった教科書を開き、呪文を唱え始めた。


「何をしているの?」

「決まっているわ。予習よ。」


時期王候補ならば当然のことだ、という。それをみて、レイチェルは「せっかく友達になったのに、今日くらい皆でお話ししましょうよ。」と言ったが、ミラはその言葉に耳を傾けることはなく、予習している。


ミラが呪文を唱えると、左指にはめられた指輪が煌めいた。それと同時に、ミラは人差し指を振ると、遠くに置いてあったマグカップが、彼女の掌に飛び込んできた。


「これは“ものを引き寄せる呪文”よ。」


アイリーとレイチェルは驚きを隠せなかった。普段生活していれば、魔法を使うことは日常茶飯事だが、こんなにもスムーズに魔法を使うことができる彼女の才能に感動したのである。


「これは負けられないわ!」


ミラに便乗して、レイチェルも予習を始めた。彼女は負けず嫌いである。そのため、ミラの魔法を見て、悔しくなったのだ。


その2人を見て、アイリーも予習を始めた。


(私は人間だし、2人よりももっと頑張らないと!)


しかし彼女は教科書を見て愕然とした。


(そもそも魔法ってどうやって使うのかしら…)


今まで魔法を使ったことないアイリーにとって、であるか以前に使がわからなかったのだ。


そのことを改めて実感すると、彼女に見えない不安が押し寄せてきた。本当に魔法を使いこなせるのか、王になることができるのか、など今まで薄々と感じていた不安が頭をよぎる。


しかしどうすることもできず、予習に夢中になる2人を横目で見ながら、1人肩を落とした。





 世界“ヴァスドル”は、中央部と呼ばれる領域を中心に、5つの国に囲まれている。この5つの国は、魔法使いと人間の暮らす2領域に分かれていることは共通しているが、環境、価値観や生活様式など異なる点が多い。


その中のひとつであり、アイリーたちが暮らしている“ホーラ”は比較的厳正な国である。特にそれを示しているのは、このヘイムダル魔法学校である。


他にも魔法学校は存在しているが、その中でも公明正大な学校であるヘイムダル魔法学校は、現校長ガーラン・アイヒベルガーによってかなり改変され、この学校が公明正大になったともいえよう。


彼は貴族生まれではない。元々は小さな村に生まれた長男であったが、貴族顔負けの魔法能力を備えていた。そのため、75年前に起きた“闘いシュラハト”での功績もあり、校長に就任できた。


それからは身分問わず、魔法を学びたいという思う生徒を受け入れる体制を整えた。そのため、現在では、他国からの入学が殺到している。それは彼の人格もそうだが、それ以上にが大きい。


この魔法学校では、1学年から5学年まで存在する。入学は13歳の男女であり、魔法能力があることが入学条件である。ただ、この条件はに当てはまるため、年齢さえクリアしていれば、誰でも入学できてしまうのだ。


当時、彼が校長として就任した際、入学条件にあった細かい内容を全て白紙にしてしまったのだ。しかし、そのことに関して運営委員会から「空白が多すぎる」という注意をされ、渋々追加したのが、この条件であった。


授業内容は、大きく分けて二つある。「座学」と「実践」である。「座学」では、魔法呪文や歴史など、教卓を使って行われる学習であるのに対し、「実践」とは呪文の実技であり、机を使用しない。


授業内容に対し、担当している教師も異なる。それぞれの得意分野を教えることで、プロフェッショナルな魔法使いを育てようという理由である。






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