Ⅱ - Ⅵ 格差社会

 長かった式典が終わり、各クラスの集合写真を撮ることになった。その場には、生徒の保護者も見にきていたため、多くの生徒は保護者との再会に喜んでいた。


「レイチェル、おめでとう。」


そう言ってアイリーたち3人のところに声をかけてきたのは、青年と少年だった。レイチェル曰く、彼らは“タピオ”で仲の良かった兄弟だそうで、今回両親が来られない代わりに来てくれたそうだ。


「初めまして、僕はコニー。こっちは弟のオリスだ。」


コニーは深緑色のサラサラな髪を、式典らしくワックスで固め、灰色のスーツを着ている。瞳は髪の色と同じであり、優しさが伝わってきた。

隣にいたオリスは態度が悪く、軽く会釈しただけだった。髪色は兄よりも薄い緑色だが、瞳の色は一緒である。服装は、ベストにズボンという正装だった。


「レイチェルはおてんばな子だから、迷惑をかけるだろうけど、どうか仲良くしてやってほしい。」


まるで彼女の本当の兄のように心配するコニーの横で、レイチェルは恥ずかしそうに「コニーったら。」とモジモジしていた。

その姿を見て、アイリーとミラは「もしかして。」と思い、彼女を冷やかした。


「別にそういうんじゃないから。」


レイチェルの満更でもない返事を聞き、彼女らは笑った。しかし、それを見てオリスは余計膨れ面をした。「兄ちゃんのどこがいいんだよ。」と皮肉めいた言い方をしたが、コニーはいつものことなので、軽くあしらった。


レイチェル曰く、この兄弟はよく比較されるらしく“落ち着いた兄”と“やんちゃな弟”という評判が広まっているのだという。年齢がかなり離れているため、仕方のないことなのだが、まだ子どものオリスはムキになっているのだ。


「ヴァレンタインとかになると、コニーは何個かもらえるのに、オリスは母親と私だけなのよ。またそれでムキになっちゃってさ。」


その話をすると「そんなのいちいち言わなくていいから!」とオリスが大声を出したので、アイリーたちは笑った。


コニーとオリスはもうそろそろ帰りの時間になってしまったので、ここでお別れである。レイチェルは、2人の背中が小さくなるまで手を振った。


「素敵な2人だったね。」


アイリーがそういうと、「ありがとう。」と答えた。


しばらくして、ミラを呼び止める声がした。


「お父様、お母様。」


ミラの両親である。両親はこちらに一礼すると、アイリーとレイチェルを見た。

すると父親は何か不快な表情を浮かべ、鼻で笑った。


「ミラ、この人たちは誰だ?」


そう言われ、ミラは少し口籠ると


「もし友達というのであれば、もっと人を選びなさい。このような、何処の馬の骨かもわからん家の子どもと関わっていると、お前の将来が危うくなるだろう。」


「この子達、どう見ても庶民よね。少なくとも純潔貴族ではないわ。見たことないもの。」


母親もそう言った。

そう言われたミラは、これまでにない憎悪の表情を浮かべていた。


アイリーはその様子に気づき、先ほどのミラのことを思い出した。


《そんなことをするのは一部の過激派だけよ。馬鹿馬鹿しいわ。》


(あの時の、何か思い当たるような人でもいるような感じ。きっと両親に向けて思っていたのかしら。)


ただミラは言い返せなかった。

昔から両親の純潔貴族としての教育に納得がいかなかった。もちろん礼儀やマナーなど、貴族として身につけるべきことは理解していた。

しかし、自身で選ぶことができないこと–生まれ–にそこまで価値があるのか?という疑問を持っていた。


そう思いながらも両親に逆らうことができず、今日まで至る。しかし短い間であったが、アイリーやレイチェルと関わったことで、改めて自分の考えに確信を持っていた。


(生まれ育ちは関係ない。)


「私は…」


ミラは何とか口を動かそうとしたが、どうしても次の言葉が発せなかった。


「私たちはミラの友達です。」

「あなたたちが何と思っていようが、私たちはミラの友達です!」


そんなミラを庇うように、アイリーとレイチェルが彼女の両親に反抗した。ミラは驚いた。


(あんなひどい言い方をされたのに、それでも私を友達だと言ってくれるの?)


しかしその言葉を聞き、彼女の父親はあからさまな苛立ちを見せた。そして2人に説教をしようと口を開いた時


「彼女たちは、あなたの娘と同じ候補者だ。これ以上続けるのであれば、それは予言への侮辱行為になる。どうかおやめいただきたい。」


という声が聞こえた。正体はエルベアドである。当たりは一瞬にして静まり返った。


「これは、ヒンデンブルク家の聖者様。このような場にまさかいらっしゃるとは。よかろう。今回は彼に免じてここまでにしてやるが、決してお前たちのことを許したわけではない。1日でも早く、娘から離れたまえ。」


そう言って、ミラの両親は、その場から立ち去った。彼らの姿が見えなくなると、あたりはまた騒がしくなった。


「ありがとうございます。エルベアド様。」


3人は感謝を述べた。彼は「礼を言われるようなことはしていないよ。」と答えたが、彼女たちにとって彼の助太刀は、それくらいの価値を持っていた。


エルベアドが立ち去ると、ミラは2人に謝った。


「私のせいで、2人に嫌な思いをさせて申し訳ないわ。」


彼女にはまだ両親を説得させるほどの力はない。ただいつかは両親を納得させてみせる、と答えた。


「もう、私たちは友達だよね?」


レイチェルがいうと


「当たり前じゃない。」


とミラが微笑んだ。


これから3人は運命を共にする。

そしてこれが、彼女たちの出会いであった。


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