第2話 研究対象

 天井にある蛍光灯は電流が流れていないらしく、辺りは真っ暗闇だった。暗闇は私が嫌いなもので、手を胸に当てれば動悸がやけに早いことが実感できる。けれども、それが先に進まない理由にはならない。

 ああ、こんなことになるならば、あの部屋から光源の一つでも取ってくれば良かった。私に光を与えてくれたあのライトは、確かに持ち運ぶには少し重たいだろうけど、コンセントで繋がっているわけではないタイプだった。でも、あそこには戻る気になれなかった。もう一度、死体を見る勇気は生憎持ち合わせていないし、それは暗闇を歩くよりも怖いことだった。

「⋯⋯これは。」

 そんな時、私はある部屋を見つけた。幸運だった。何せその部屋の扉に貼り付けられたネームプレートには『Supply room』という名前が記載されていたからだ。ここになら、光源の一つや二つあるかも知れない。

 部屋の中に入ると、やはり真っ暗で漁ろうにも時間がかかりそうだったし、散らかっているのか転けそうになった。そして部屋を物色し始めてから五分も経たない内に、目的の物を発見できた。

 それはタクティカルライト。懐中電灯を探していたけど、まさかのガンアタッチメントの発見に驚きを隠せなかった。でも光源には変わりない。

 これに味を占めた私は、また別の部屋も探索することにした。私は、私自身についての記憶がなかった。文字が読めることは不幸中の幸いなのかもしれないけれど、現状把握はやはり大事、ということで今度は『Archive』の扉を開いた。

 部屋にはいくつもの無機質な棚があって、一見して冷たな印象を受けた。本当に機能性だけを求めたようだった。棚には書類が保管されていたし、棚以外には机やロッカーがあって、机の上には電源が繋がらないパソコンがあった。

 唯一見られるのは書類だけで、私はすぐに目的の物を発見できた。何せ書類は種類分けされていて、そこにあった人物関連の区分から名前の順で調べれば、私のAliceという名前はすぐに出てきたのだから。

 そのレポートのタイトルには、こう書かれていた。

 Study on Alice Dianna White──。

「私に関しての研究⋯⋯。」

 私はただの人間。少なくとも、自覚できるような超自然的な能力は持ち合わせていないのだけれど、こんな研究施設が少女一人を、確信もなく調べるなんてあり得ない。私は自覚できない力で、研究対象となったのだろうと思う。

 私はその研究結果を深く読むことはしなかった。多分、書いていることは全く理解できないだろうから。というか、少し読んでみたけど、実際、全く何を言っているのか分からなかった。文法はわかる。けど、専門用語が難しいし、多過ぎて、別の言語を読んでいるような気分になった。

 精々分かることがあったとしたら、私の本名と年齢が十三歳であることだけ。私の両親の名前も、生い立ちも、この資料には何も書いていなかった。本当に研究に必要なものだけだった。

「⋯⋯まあいいや。先に進もう。」

 何かこの場所の手掛かりでも見つかればよかったのだけど、無いなら無いで仕方がない。ということで私は『Archive』から出て行った。

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