木とそれ以外、あるいは機械工学 17

 縦横無尽に走り回る稲妻が、私の心を焼き尽くしても尚、空に向かって放たれた花火を追い求めることを可能とするだろう。実験的に書き溜めた日記を、私的に破り捨てては、悦に浸るだけの毎日を、私は後悔することはないだろう。したがって、そこから類推されることは、最も標高のある土地において、その新鮮な空気の様を、投げ出してまで手に入れたものを数え上げるのみ。愉快至極の境地、かつ、光を帯びたシナプスは、それまでの過去を置き去りにして、ひたすらまっすぐに走り続けた。

 肥大化した希望の塊と、往来を避けて佇むハッキリとした山脈は、比較するまでもなく、鬱蒼とした差異を知覚することができた。私たちの感覚器官が狂乱の叫び声をあげて、我先にとセンシングを開始し、体中が狂気に包まれてしまったが、それでも欲望には忠実で、落ちぶれた人間の骨を拾い集めるだけだった。

 誰が何のために生み出したのか、その塔はいつからそこにあったのか、何一つ情報は無かった。雲を突き破って、大気圏を突破し、宇宙にまで突き出したその塔は、無言のまま、誰に邪魔もされず、また、誰を邪魔することもなく、立ち止まっていた。全長一万キロメートルはあるだろうか。しかし、その数字に意味はない。時間の流れとともに、数字の意味は失われてしまったのだから。

 少女は学校から帰ってくると、すぐに泣き出してしまった。私は少女の話をしっかりと聞くために、いくつかの質問を口にしたが、少女の話はあまり要領を得なかった。

「全部アルゴリズムちゃんが悪いのよ。真に正しいことなんてあり得ないのに。人間の考えなんて偏見にまみれているのに。アルゴリズムちゃんは何でも自分が正しいと思っているんだから。私が何を言っても無視をするの。お礼さえも言わない。私、アルゴリズムちゃんが嫌いだわ」

 少女はそれだけ言うと、涙を拭いて、自分の部屋に閉じこもってしまった。私にできることは何もなかった。

 喧嘩をするほど仲が良いとはよく言うが、この場合はどうなのだろうか。考えの違いは人と人の間に大きな溝を生み出す。溝が浅いうちはいいが、底が見えなくなるぐらいに深い溝ができてしまうと、簡単には越えられなくなる。私たちはそういったことを経験的に理解しているのだ。しかし、少女はまだ幼い。人間の関わりの尊さを少女が理解する日は来るのだろうか。世界が終わるまでに、少女はどれだけのことを理解できるのだろうか。両親のこと、友人のこと、そして、私のこと……。

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