木とそれ以外、あるいは機械工学 12
町は静けさを伴い、我慢なんてものもなく、必要性の高いものから順番にゴミ集積場へと運ばれていった。しかし、今さらゴミとゴミではないものの分別などに意味はなく、ゴミ集積場には、よくわからないものたちが集められていた。古い扇風機、美しいペルシャ絨毯、伐採された桜の木、五円玉の山、かわいい熊のぬいぐるみ、などである。私はそれらを一通り眺めた後、一冊の本を拾って、家に帰った。法律上は泥棒と同じことだが、誰も私を咎めようとはしなかった。
私は今なお、攻撃を受けていた。どのような攻撃を受けているのかは説明できない。それは言葉で表現しようがないのだ。言葉が表現できる範囲を超えた攻撃としか言いようがなかった。攻撃者は未だ判明しない。どこから攻撃しているのかも分からない。その攻撃は防ぎようはいくらでもあるが、私はあえて防御をしなかった。どうせ死にはしないからだ。それよりも、攻撃者の尻尾を掴むことが何よりも重要だった。
公園の中央に咲く桜の木が燃えていた。燃えて消失した。消防システムによって、火はすぐに鎮火されたが、桜の木はあとかたもなく塵になってしまった。焦げ臭いにおいだけが残された。私はもう桜の花見ができないことを悲しんだ。この公園には桜の木はもうないのだ。二百年の間、咲き続けた桜は、あっけなく姿を消した。
家に帰ると、少女が音楽に合わせて踊っていた。日食なつこの『水流のロック』という曲だった。ピアノとドラムの伴奏、そして、日食なつこの歌声がメロディを奏でている。
少女は踊りながら言った。
「私も日食なつこのような曲を作ってみたいわ。だけど、どうしたら作曲ってできるのかしら?」
少女は常に疑問を抱いていた。今日は作曲の方法だった。
私は答えた。
「作曲について本で調べてみようか。そういった本が、たしか本棚にあったはずだよ」
私と少女は一緒に本棚を探した。すぐに目当ての本は見つかった。私と少女は椅子に座ると、一緒になって本のページをめくった。
「……楽譜を書けばいいらしいわ。でも、音楽の授業で楽譜の読み方は教わったけれど、書き方は教わってないの……」
「大丈夫。読み方と書き方は一緒のことだよ。ただ順番が反対になるだけさ」
「……そうね。やってみるわ」
私と少女は本に書いてある通りに楽譜を書いた。それは素晴らしい体験だった。五線譜の上に、まるで踊るかのように黒い丸がたくさん並んだ。そして、私と少女の初めての曲が完成した。
少女は尋ねた。
「タイトルはどうしましょう?」
私は少し考えてから答えた。
「そうだな。『木とそれ以外、あるいは機械工学』とかどうだろう?」
「いいわね。気に入ったわ。この曲は『木とそれ以外、あるいは機械工学』よ」
それから、私と少女は、初めての作曲の達成感に酔いしれながら、踊った。
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