鳴動・鳴動・鳴動
木とそれ以外、あるいは機械工学 10
私は音楽を聴くとき、曲調にばかり耳を傾けて、歌詞にまでは気を配ることができない。どの楽器で演奏されているのか、誰が作って、誰が演奏しているのか、いつ、どこで録音されたのか、どんな伴奏で、どんなメロディなのか、そんなことばかり気にしていた。それが私の音楽の聴き方だった。
しかし、日食なつこの『エピゴウネ』だけは違った。この曲には明らかに歌詞が存在していた。かつて存在した日本という国で、一般に使われていた言葉で書かれた歌詞が、この曲では歌われていた。迫真的な力強い女性の声に乗せて。
私は「歌詞」というものに感動していた。メロディに乗せて、人間の声を使って、言葉を音楽にするという手法に驚いたのだ。それはまるで、本の中からストーリーや登場人物を取り出す魔法のような力だと感じた。そう、そこには、重力が空間を押し曲げるように、明らかに力が生じていた。「言葉の世界」から「音楽の世界」へと橋渡しをする、何らかの力が働いているのだ。私はその力が何者なのか、切に知りたいと願った。
とある物理学者は語った。世界は音楽で満ちていると。音楽とは、すなわち、音の連なりであり、空間に満ちている媒体を伝わる波たちが、連続して鼓膜を揺らすことであると。だからこそ、終焉が刻一刻と近づいている私たちの世界においても、音楽は今なお存在していると。いや、たとえ、この世界が終わったとしても、音楽はそこに存在し続けると。つまり、「無」さえも音楽の一部であると。
少女は安心してベッドに入り、眠りについた。
「明日はおはじきで遊びましょ。私、アルゴリズムちゃんにおはじきをたくさん借りてきたの。これだけたくさんあれば、野球ゲームだってできるわ。もちろん、私が先手だけどね」
少女は眠りにつく前に、私にそう言った。
「おはじきか、それはおもしろそうだね。楽しみにしておくよ」
私はそう答えた。
その時、私は瞬間的に察知した。攻撃を受けているのは私自身であると。攻撃者は誰か分からない。攻撃者がどこにいるのかも分からない。なぜ攻撃しているのかも、どのように攻撃しているのかも、何も分からない。だが、明らかに私は監視され、どうしようもなく、攻撃を受けている。それだけが事実だった。
私は決意した。どんな罪を犯してでも、少女を守らなければいけない。それだけが私に残された使命である。少女が生きながらえて、そして、世界の最後とともに、死ぬことさえできれば、それでいいのだ。
どこまでも続く薄暗い夜が明けて、朝日が顔を出した。
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