ストームの章・その2 鍛冶師はじめました
ここサムソン辺境都市には、【ラグナ・マリア帝国】の各地域から大勢の技術者が集まっていた。
地理的には都市の東、北、南を山脈によって閉ざされ、残る西は大森林によって囲まれている。
だが山脈と森林の彼方此方は整備された街道によって帝国の他の都市へと繋がっており、各地から大勢の人々が集まり技術の中継都市となっていた。
3つの山脈にある鉱脈からは、希少価値の高い鉱石も採掘されている。
中でも帝国が直接発掘の指揮を取っている『バリーユ鉱区』の最深部からは、極稀にミスリル鉱も採掘されていた。
サムソンの都市内には数多くの鍛冶屋や武器・防具屋があり、その品質の高さから冒険者を始め様々な人々がそれを求めてやってくるのである。
「ここが帝国鍛冶工匠だ。一般的には鍛冶ギルドで話は通るけれどな」
街の小さい工房とは違う巨大な施設。
ちょうど街の北東部に位置するその建物では、大勢の人々が行き交っていた。
――ガキィィィンガキィィィィン
と、施設の裏手からは幾つものハンマーを振り下ろす金属音が響いている。
「これだよこれ。冒険者もいいけれど、まずは鍛冶ギルドだろう?」
「いや、その判断基準がよく判らないのだけど。取り敢えずこっちへ」
とデクスターがストームを呼ぶ。
中には様々な武具が展示されており、そして彼方此方のカウンターからは武具を購入しようと交渉している客や、外の工房で仕上げてきた武具を売り込みに来ている職人などで溢れかえっていた。
その中でも右側のカウンターがギルド受付らしく、デクスターはまっすぐにそちらへと向かっていった。
「お、応っ!!」
ゲームの世界では見慣れていた光景。
しかし、いまの自分にゲームの中での技術があるのか、どこまでの武具が作れるのか試してみたかった。
「おや、デクスターかよ。相変わらず湿気た顔しているなぁ」
禿頭に白い髭の受付が、デクスターに悪態をついた。
彼方此方に傷跡の残っている、いかにも歴戦の勇士といった感じのドワーフである。
「うるせぇ。バルバロッサ、ギルドの新規登録だ」
「ほう。珍しいな。にいちゃんか、鍛冶の経験は?」
とストームに問いかけるバルバロッサと呼ばれたドワーフ。
「一応、ある程度の知識と技術はある」
とだけ告げる。
「なら初心者の講習はいらねぇな。『魂の
言われるままに【魂の護符】を体内から取り出すと、それを預ける。
カウンターには【鑑定儀】と呼ばれている天秤が置かれていた。
その右の受け皿に、ストームの【魂の護符】が置かれる。
――ブゥゥゥゥゥゥゥン
【鑑定儀】が鳴動を開始し、静かに光輝く。
【魂の護符】の載っている受け皿がゆっくりと下り、そして反対側に光る何かが発生する。
それが形を形成し始めると同時に、右の受け皿がゆっくりと上がっていった。
やがて左右の天秤のバランスが取れた時、左の受け皿に【銀色のプレート】が完成していた。
「ふん、いきなり銀色とは大したものだな。ほれ、持っていけ」
と【魂の護符】といま生み出された【鍛冶ギルドプレート】をストームに手渡した。
そのうちの【魂の護符】は体内に取り込み、もう一枚の【鍛冶ギルドカード】を繁々と見る。
「説明の中にあった銀色のカードか。俺はBクラスなのか?」
「ああ。いくら知識と経験があったとしても、だいたいの奴は良くてDクラス登録からだ。最悪登録不可なんてこともあるからな。なにはともあれおめでとうさん!!」
そのバルバロッサの説明に静かに頷くストーム。
「さて、ここからが本題だ」
バルバロッサの声のトーンが下がった。
「フリーでいくのか? それともここの専属になるか?」
フリーの鍛冶師とは自分で工房を持つか、ギルドにある鍛冶場をレンタルする者が多い。
自身の腕一つでやっていく自信があるなら当然こちらである。
帝国専属は給料を貰って、指定された武具をここで仕上げるのである。
一定の品質さえ維持できれば、そっちの方が収入は高い。
「ここの工房を借りるのは幾ら掛かるんだい?」
「一月で金貨5枚」
高い、高すぎる。
けれど、腕のいい鍛冶師をここで帝国に取り込むために、あえて高く設定しているんだろうとストームは理解。
「少し考えさせてくれ。それじゃあ、登録ありがとうございました」
と挨拶すると、ストームとデクスターは鍛冶ギルドを後にした。
‥‥‥
‥‥
‥
「で、どうするんだい? 冒険者ギルドにも行ってみるかい?」
というデクスターの勧めで、とりあえず冒険者ギルドにも寄ってみた。
鍛冶ギルドからも目と鼻の先だったので、それほど移動に時間もかからない。
デクスターの紹介ということで、受付でもすんなりと話が進んだのだが。
受付で登録を終え、受け取った【冒険者ギルドカード】もやはり銀色のBランク。
但し、そこに表記されているクラスが可怪しかった。
「凄い、凄いですよ。ストームさんの登録クラスは【
受付嬢が興奮した声でそう叫ぶ。
と、冒険者ギルド内の一角にある酒場から、数人の冒険者が顔を出してきた。
「へぇ。ヴァンガードとは。うちのチームにこないかい?」
「いやいや、ヴァンガードとなるとお前のヘッポコチームでは実力を発揮できないだろう? ここはサムソンでもエースクラスのうちのチームが」
一人、また一人と勧誘の冒険者がやってくるが。
「申し訳ないけど、いましばらくはチームには入りませんので」
とあっさりと断りの返答を返す。
「あー、そうか、もし気が変わったらいつでも声をかけてくれよ」
「フリーでいくのなら、そのうち何か頼むからな。頑張れよ」
とにこやかに酒場へと戻っていく。
「さて。デクスター、ヴァンガードってなんだ?」
今までやってきたゲームにも、ヴァンガードというキャラクタークラスは存在しない。
一体何が出来るのか、それを知りたかった。
「うんーと。ヴァンガードって言うのは、オールラウンダークラスだ。如何なるクラスのスキルも魔術も習得でき、それらを後任の者に教え伝えることの出来るものだよ」
なんでも出来るというのはよくわかった。
【モードチェンジ】で何にでもなれるからということだろう。
で、問題はその後。
「スキルや技術があれば、誰にでも教えられると思うのだけれど」
「えーと、つまりはなぁ。適性というかその‥‥」
デクスターが頭を抱えて悩んでいる。
うまく説明できないのだろうと思い、視線をカウンターの受付嬢へと向ける。
「えーゴホン。ヴァンガードについては先ほとの説明のとおりです。で、本来の能力は『如何なる対象にでも、持てる技術を教え導く』ということです」
そのまんまだなと思ったが
「例えば、剣士に対してヴァンガードが魔術を教えると、剣士のクラスは新しく『魔法剣士』となります。独力で魔法剣士となるのは現在はほぼ不可能で、帝国の場合は王都にある【アカデミー】に進学し学ばなくてはなりません」
おやまあ。
「つまり俺はオビ・ワンて所ですか」
「うーん、そのおびわんが何かはわかりませんが、単体クラスの者を複合クラスへと導くことが出来るのはヴァンガードだけです。この帝国にはヴァンガード認定されている冒険者は12人しかいないのですよ」
ほほう。それはまたとんでも無いことになったものだと。
「あー。なんか面倒くさいことになったような。まあ、取り敢えずありがとうございました」
と一礼すると、デクスターと共に最初にいた酒場へと戻っていった。
「それにしても、これからどうするかだよなぁ」
無事に鍛冶ギルドと冒険者ギルドの登録は完了した。
あとは何処かに拠点を定めて、色々とやってみようと考えた。
「しかしストームがヴァンガードとはねぇ」
「そんなに珍しいのか?」
「珍しいってもんじゃない。世界広しといえどオールラウンダークラスはヴァンガードと‥‥あ、あれがあったか」
と笑いつつ何かを思い出した。
「アレとは?」
「簡単に説明するとヴァンガードのなり損ない。何でも出来るけれど何も出来ないっていうクラスが一つあるんだぜ」
「へー、そいつはなんていうんだ?」
「トリックスターと言う、シーフと戦士と魔法使いのなりそこないだよ。習得できる技術も初級分類のものばかりだし装備制限もあるしなぁ」
と大笑い。
「へぇ。一度見てみたいものだなぁ」
そのうち見れます。
貴方の相棒です。
「で、ストームはこの街に来たばかりだろう? どっか宿でもとらないと」
「それなんだけれどなぁ。せっかく鍛冶ギルドに登録したから回りを気にしないで思う存分腕を奮ってみたいんだよ。けれど、レンタルというのもなぁ」
腕を組んで考えるストーム。
「‥‥なんだあんた、炉のある家を探しているのかい」
と、酒場のマスターがエールを手にやってくる。
すでに昼間から飲んでいる店主、ちなみにドワーフの爺さん。
「ああ、爺さんどっかいい所ないかねぇ」
とデクスターが問うと。
「爺さんとは失礼な。ワシにはウェッジスという立派な名前があるわい!! ワシが引退する前に使っていたあばら家ならあるぞ。そこでいいんなら使ってみるか?」
――ガタッ
渡りに船とはこれ如何に
「それでもいい。頼みます」
「まあ、結構あれているから自分で手入れしな。家賃は金貨1枚でいいぜ」
「しっかりとるのかよ!!」
とツッコミを入れるデクスター。
「助かった。それじゃあこれを」
と金貨を3枚手渡す。
「3ヶ月分か。しかしものを見なくていいのか?」
「ドワーフの職人が使っていた炉と建物だろう? 信用はするよ」
とキッパリと告げるストーム。
なら付いてくるように告げると、店主は街の北東へと向かっていった。
○ ○ ○ ○ ○
サムソン北東門の付近には、冒険者たちの居住区が彼方此方にある。
門からすぐ外はずっと荒野、その先には、このサムソンに住まう人々の共同墓地があった。
そこはサムソンに城塞が築かれる以前からあった墓地であり、昔から人々にとって大切な場所であった。
が、現在は【魔障】の異常発生により、様々なアンデットが時折出現する危険な場所に変貌している。
墓参りに向かいたい人々は、冒険者ギルドで護衛を雇ってそこに向かう。
その道中、門の近くにある広い空き地の一角に、酒場の店主の家があった。
一階建て、庭は石畳で覆われており、外に剥き出しになっている鍛冶場には木製の屋根も付いていた。
屋根の下には巨大な金床、入れ槌などを収める棚、研ぎ兼用の仕上げ台、焼入れ用の石造りの水槽などが置かれていた。
そしてもっとも気になったのは巨大な炉。
ドワーフの火炉とも呼ばれている、かなりの高温も耐えられる炉が、筵をかぶせられて置いてある。
居住区はそれほど広くはなく、煮炊きするための土間と3つの部屋がある。
一人で住まうには十分な大きさだった。
「あれ、予想よりも遥かにいいぞ」
「まあ、たまに来ては掃除はしていたがな。けれど棚においてあった
豪快に笑いつつ告げるウェッジス。
「それは自分でなんとかしてみますよ。ここは門から近いのがいい。個人で行ける鉱床はあるのですか?」
とウェッジスに問いかける。
「朝一番で、誰でも使える廃坑に向かう乗り合い馬車がでている。それに乗って半日ほど山に向かうと、元帝国管轄の『ドゥーサ鉱区』という場所につく。そこは誰でも掘っていいことになっている」
「そんなところがあるのか」
「ああ。元々は帝国の管轄鉱区だったけれど、採掘量が減ったことと、もっと良い鉱脈を発見したので権利を放棄してしまったのじゃ」
それは好都合。
「そこには宿泊施設とかはあるのですか」
「ああ、古い建物だが、坑道に入る者たちを管理する建物がまだ機能していてな。鍛冶ギルドから管理する者が何名か派遣されている。そこは宿場も兼ねていて、坑道を訪れる者たちのための簡易宿としても機能しているぞ。ちょいとばかし高くつくがな」
ということで、これである程度の準備はいけると確信したストーム。
「ウェッジスさん、色々とありがとうございました」
「いやいや、礼には及ばんよ。時折店で使う包丁を研いでくれればいい」
「その程度でしたら」
ということでストームとウェッジスはガッチリと握手。
「それじゃあ、俺もこれで失礼する。頑張れよ、ストーム」
「デクスターにも色々とお世話になったな。ありがとう」
デクスターにもお礼を告げる。
そのままウェッジスとデクスターは帰宅の途へとついていった。
「さて、まずは掃除からか。先に色々と買い出しに行かないといけないなぁ‥‥」
そのまま商業区へと買い出しに向かうストーム。
明日からはいよいよ鍛冶師としての第一歩である。
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