最初の活動は
五
社会奉仕部兼学校同好会の活動初日は、写真撮影と三ツ谷高校七不思議で幕を閉じた。何も決まらなかったけれど、自転車を
自宅がある団地での別れ際、遠野さんは自転車を停め、
「やっぱり会員が必要だな」
と切り出した。
「せめて部員と呼びましょう」
会員だと、まるでねずみ講みたいだし。
「悪い悪い。気をつけよう」
遠野さんは
「勧誘期間はまだ一週間ある。呼び込みでもするか」
「社会奉仕部が進んで勧誘していると、
「はっは! 面白いことを言うなあ! 献血センターの職員はボランティアじゃないぜ?」
そういうことを言いたいわけじゃない。訂正しても長引きそうだ。陽も既に落ちてしまっているし、手短に済ませよう。
「それでは、手始めにポスターでも貼りますか」
「ナイスだ、
遠野さんがうきうきと足でリズムを刻む。俺も絵に自信がないでもなかったけれど、遠野さんのやる気を削ぐのは得策ではない。やりたい人にやってもらうのが人間関係を円滑に進めるコツなのだ。俺は愛想笑いを浮かべて、
「それは楽しみです」
と言った。
翌週。
「どうだ?」
遠野さんが見せてきたポスターはとても芸術的だった。中学の頃、体育祭の学級旗が独特な仕上がりになった年があったけれど、あれは遠野さんが描いたものだったのか。観覧に来た保護者がざわついたことを
俺はこくりと
「いいと思います」
と称賛した。
「早速
ポスターを見るなり、基先生の表情が露骨に曇った。
「地獄変か」
「はっは! 面白いこと言いますね、先生! 勧誘ポスターですよ! ちなみにこれが人です」
遠野さんがポスターの一部分を指差す。基先生は指で眉間を揉み、ポスターから顔を逸らした。呆れているのか、脱帽しているのか、はたまた笑いを
先生が俺に視線を寄越す。説明を求めている顔だ。俺は肩を
「皆さんの注目を集める、とても良いポスターだと思います」
と言った。
先生は深く息を吐いた。朝から気を重くして申し訳ない。
「確かに注目は集まるだろうが」
本当に良いのか、と先生は言外に
基先生はデスク上の印鑑を手に取り、勧誘ポスターの右上に『基』の印を押した。続けて『広報委員会』のゴム印を押す。
遠野さんが満面の笑みで腰を直角に曲げる。
「ありがとうございます! これでもう掲示板に貼っていいんですよね?」
基先生が
昇降口にある掲示板は、カラフルな勧誘ポスターで隙間なく埋め尽くされていた。先週よりも数が増えている。どうやら俺たちと同じ考えの部活があるようだ。
中でも一際目を引いたのは新聞部だ。新聞調のデザインに堅い文言の組み合わせは、色とりどりのポスターの中で逆に目立っていた。『公明正大』と大きく書かれ、彼ら彼女らの信念がひしひしと感じられた。
どこに貼ったものかと考えていると、広報委員会の生徒が期限切れの掲示物を
昇降口を通りかかる生徒が社会奉仕部の勧誘ポスターを見かけるなり、ぎょっとした表情を見せる。中には二度見する生徒までいる。作戦大成功だ。明日には部員が十人くらい増えていることだろう。
「遠野君、
背後から声をかけられ、俺たちは振り返る。気安い調子で佐倉さんが手を振っていた。緩くかかったパーマが、落ち着いた色合いの制服に良く似合っている。
佐倉さんは社会奉仕部の勧誘ポスターに気付くなり、じろじろと見つめた。
「こりゃまたすごいね。ピカソ?」
「みたいなものさ」
遠野さんが胸を張って言う。自己評価の高さこそ遠野さんの良いところだ。そこには努力による裏付けがある。
「基先生お
「公序良俗に反しない限り、勧誘ポスターの内容に制限はないらしいぜ? 校内新聞にはコラムや四コマ漫画があるらしいが、NGを食らったことはほとんどないそうだ」
また須田さん情報か。遠野さんは他人と打ち解けるのが早いなあ。
佐倉さんは満足そうに
「それなら、放課後には予定どおり校内新聞の第一号が掲載されるね。みんないい顔してたから、楽しみにしててよ。じゃ!」
と言って去っていった。
嵐のような人だ。予鈴に急かされるように、俺たちも教室へと戻った。
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