第7話

 添乗員が俺の部屋に駆け込んできた。

「大変です。女性サウナでひとが死んでます。直ぐ来てください!」

研田と2人急いで階段を駆け下り、リラク室に入ると戸一さんがバスローブ姿でへたり込んでいる、女性のサウナ室のドアを開ける。頭だけを出す形のサウナ箱が一列に4つ並んでいる。その一番奥に首にタオルを巻きつけ、項垂れている女性がいた。

脈は無い。首にはタオルで締められたのだろう跡が残されている。抵抗したような跡は残されていない。無造作に開かれている両の掌に薄く2本の線が走っている、抵抗した傷か?紐をタオルで巻いて絞殺を誤魔化そうとしたか?研田に写真を撮らせる。遺体の色んな方向から、部屋の床、壁、天井、入り口、リラク室も入り口から一通り撮らせる。サウナ室内は床も濡れているので遺体を同じ階の食堂のテーブルに乗せる。毛布を掛けておく。タオルの長さは50センチ位、幅は30センチある。これで締めるなら結構力が入りそうだ。女には無理か?

添乗員に訊くと船で用意したタオルだという。同じものを借りた。

添乗員さんに無理を言って、そのタオルでサウナに入った研田の首を締めて貰った。思いっきり、死んでも良いからとは言ったが、締めても研田は死ななかった。少し伸縮性のありそうな生地なので、研田も簡単にタオルを外せた。

そして添乗員さんに各所のゴミ箱のゴミを確認したいので捨てないようにお願いする。

 犯人は男性だと確信した。

また、全員を食堂に集めてもらう。先ず、発見の状況を戸一さんから訊く。

「私、サウナへ行こうとしてリラク室にはいったら、共通部分の映画を見ていた風鈴さんに話しかけられて、並んで座って10分か15分位お喋りして、先に風鈴さんが退出して、映画を少し見てからサウナの更衣室で着替えてから、サウナ室のドアを開けてみたら一人奥にいて、こんにちわって声を掛けたんですけど反応なくて、項垂れてたんで具合でも悪くしたかと思って、声を掛けながら前に屈んで顔を見たら目を剥いていて・・・」恐ろしい場面を思い出したようで、言葉を詰まらせている。

「分かりました。もう、結構です。嫌なこと思い出させてすみませんでした。」

研田に部屋で休ませるように指示する。

そして戸代さんから事情を訊く。

発見が午後3時半。硬直も無く、まだ体温があった。30分以内の犯行と断定した。

「私は、2時半から食堂でコーヒーを飲んでうたた寝してました。騒ぎになって起こされました。風鈴さんが3時少し前に映画見てきたと言ってましたよ」

俺が不倫関係にあることを掴んでいるとは、知らずにアリバイ証言させたな、っと思った。が、風鈴さんは展望室へ行く前に戸一さんとリラク室の共通部分で話をいている、という。殺したのが風鈴とも考えられるが、女じゃ殺害は無理だ。そこに人がいたら犯人はどうしたんだ?既にサウナの中にいて、彼女らが話をしている間に殺したことになる。それだと男の戸代の親父には無理ということになる。

俺は研田に食堂も写真を撮らせた。入り口から一通り。

「研田!お前足濡れてるぞ、床拭いとけ」

サウナに入った時濡れた靴を拭かずにそのままで帰ってきたのだ。

次に牧山さんに訊いた。

「俺は展望室から2時半過ぎに部屋に戻って、騒ぎを聞いたよ」さりげない。自身は無関係を強調したいらしい。

「一人ですか?」そう訊くと苦い顔をする。

「ちょっとあいつと喧嘩になっちゃって、別行動したんだ」

「彼女は、2時には展望室出てった、そのさきは分からん」喧嘩は事実らしい、言動にイラつきを感じる。

「あなた友田さんとも付き合いあったか、何かあったんじゃ無いですか?」

「えっ、俺を疑ってんのかよ。冗談じゃねえ。俺は関係ない」

「だったら、答えてください」

「だからそんな女知らないって、俺には彼女いるんだから」

「ほ〜、喧嘩して不貞腐れて、たまたまリラク室に行く彼女見かけて、一人になるのを待って、何かしようとしたんじゃないのか?」

「バカかそんな面倒なことするか」

「じゃあ、どうするんだ?」

「そんなことすんなら、部屋に添乗員呼んで、襲う」

「なるほど、経験済みの回答ですな」

「じょ、冗談だよ。お前がしつこいから、からかっただけだ。そんなことやらない、やったこともない」

本人の言う通り、何かするにも女性専用の場所で犯行を犯すとは思えなかった。

最後は、一人旅の彼氏だ。山田康三といった。

「この船に乗船した目的を話してくれませんか?もう二人も殺された。貴方を疑うしか無いんです」

「そうだな、あの状況じゃ犯人は男だろうからな。まあ、良いだろう。俺は興信所に働いている。最初の被害者から夫の浮気調査を依頼されたんだ。その相手が風鈴けいさんだ」

「それは私も掴んでいます」

「ほ〜素早いな。じゃ証拠の写真は要らないな」

「現時点では、ただ、警察には提出を要請されますよ」

「それはわかってるよ」

「それ以外に掴んでることは?」

首を振って帰ろうとする。俺は頷いて

「また訊くことでたらよろしく」

女性の事情聴取はサウナへの出入りを中心に訊いた。

 関係しそうなのは風鈴だが、戸一とリラク室の男女共通の場所で10分くらいは立ち話をしている。サウナから出たのは2時40分頃、友田と喋り過ぎて逆上せて先にでて、映画を見ながら冷まして、戸一さんが来たので気が紛れると思って話しかけた。そして展望室へ行ったのが3時頃だと証言した。犯行後ならそんな気持ちにはならないだろうし、息も切れて、戸一に直ぐわかってしまうだろう。何よりさっさと逃げ出したい筈だ。証言で分かったのは、2時40分から3時半までの間は、サウナには被害者と犯人しかいなかったという事だ。

添乗員に言って、友田さんの荷物を確認しに行く。

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