第6話

 日にちが替わって私は探偵事務所に数件の調査を頼んだ。今のこの世の中、一日あれば相当の事は分かる筈だ。

 次の日の昼近くに添乗員さんからデータが届いてますと電話が入った。個人で地球との通信は禁止されているので、必要があれば添乗員を通してやり取りしなければならない。

媒体を持って添乗員室へ向かう。ドアをノックすると鳥市さんが顔を覗かせる。

はい、と言って媒体をくれた。転写してくれていたのだ。そのまま使っていいと言われ感謝して辞去する。

 自分のパソコンで内容をみる。

 風鈴さんは同棲している彼氏と大喧嘩して、家を飛び出すようにしてツアーに参加したようだ。

「風鈴さん楽しんでますか?ずっと怖い顔してますけど?」俺は心を探ろうと声をかける。

「えっ、まあ、気分転換には旅行が一番!これで温泉でも入れば最高なんだけど、間違っちゃたわねえ、宇宙へ来ちゃった」

「ははは、でも、サウナもありますから、楽しんで」

 OL3人組は証券会社の仲良しグループとなっているが、競争が激しく客の取り合いで結構揉めている場面を目撃されている。3人の中では友田さんが1番の成績、次いで三条、広島の順だ。三条・広島の二人からは友田が必ず儲かるとか元本は保証するとかルールを逸脱した勧誘を行なっている、と証言している。広島さんは俺や研田だけでなく牧山、山田に、つまり戸代さん以外の男全員に、ニヤリと笑いかけ脈を図るような仕草をする。男探しも兼た旅と思っているのか?今回は仲直りのためのツアー参加らしいが本心はわからない。

「3人とも美人だから社内でもモテモテじゃ無いですか?」

「やだ〜探偵さんもお世辞言うのね」三条さんは外連味の無い感じの話し方をする。

「友田さんは会社の成績も抜群らしいじゃないですか?」

「誰言ったのそんなこと」目くじらを立てる友田さんに三条と広島さんは首を振る。

「会社の評判ですよ。殺人事件なんで調べさせてもらってます」

「何もよ全然、金持ってそうな被害者の婆さんにでも声掛けようと思ってたのに、がっかりよ」

「ははは、遊びでも勧誘ですかあ、熱心なことで」

「頑張らないとね」和かに応える。

笑うと可愛らしい感じになる。男性客はこの笑顔に騙される輩は多いんじゃないかと思った。

「広島さんは、社内の評判がいいみたいですね」

「そうですかあ、かずえ、りかそんな話訊いたことある?」

「あるよ、お前も見習えってまで言われた、あの糞課長に」友田さんは笑顔から一気に目を三角にする。

「私も、新人の男の子に広島さんて優しくて素敵ですよねって、私に何故言う?腹立つ」

三条さんの雰囲気が変わって、噛んで吐き出すような話し方をする。女は変わる。どれが本当の素顔なのかわからないと思う。それは今に始まった事じゃないが。

 被害者夫婦は日頃から喧嘩が多く、近所の人に仲裁されることもままあるらしい。旦那の飲みぐせが悪く、飲むと女に走るようだ。被害者はそんな夫に愛想尽きて金に走っているようだ。夫が死んだら自由気ままに温泉三昧することが夢だと友人に話しているらしい。今回のツアーはどちらが言い出したのかわからない、友人らも夫婦で行くなんて考えられない、何か考えがあっての事じゃないかという。船の中でも何事か揉めているのは自分も目にした。声を掛けたら「女よ!」一言叫んで奥さんは部屋に戻っていったことを思い出した。

「奥さん亡くしてお寂しいですね」

「いやあ、気持ちがスッとした部分も有ります。30年も一緒にいると、よく空気みたい、と言うでしょ、口喧嘩する相手なくなって寂しいが、喧嘩しなくて済むから良かったような、複雑な心境ですよ。時間が経ったらどう思うようになるか分かりません」

「もう浮気ではないから飲み屋にも堂々行けますね」

「バカ言うんじゃない、浮気だなんて」

「でも、情報を集めたら、いつも浮気相手はいたそうじゃないですか」

「若い時はね」

ずるい笑顔を見せて嘯(うそぶ)く。

 カップルの二人は一般企業に勤める社内恋愛の恋人のようだが、男は結構モテるらしく、浮気で揉めることがままある。今日一緒なのが本命なのかは不明らしい。本命が誰なのか友人にもよくわからないらしい。少し見ていると、彼氏がO Lの三条さんを見ている時間がある。三条さんに話を聞くと元カレとあっさり認めた。生来の女ったらしと言うのが正解のようだ。牧山さんに訊くと、元カノと言いながら未練たっぷりの様子だ。

 一人旅の男性は興信所勤務らしい、調査で乗ったのか、個人的にこのツアーに参加したのかは釈然としない。申し込み前に参加者のことをあれこれしつこく受付に聞いたらしい。興信所なので受付もある程度のことは話したと言っている。見ていると添乗員の鳥市さんの方ばかり見ている。何かしら声もかけていて、彼女が眉をひそめている姿を見かけた。色々探りを入れたが、あやふやで、これは仕事で来てるなと直感した。


 関係者のアリバイや話から犯人が導けないか研田と話しているところへ、添乗員の山際さんが来た。部屋に招き入れる。

「あの〜事件に関係あるかわかんないんですが、いいですか?」続けるように促す。

「戸代さんのご主人と風鈴さんが、二人で隠れるようにして食堂で話をしていて、どうも二人は不倫関係にあるみたいで、奥さんをお互いにお前が殺したんじゃ無いのかって責め合ってたようなんです。それをうちの鳥市が聞いちゃって、出るに出れなくって販売機の後ろに隠れるようなことになっちゃって、二人が出て行くのを祈ってたらしいんです。部屋に帰ってきたら震えてて、怖かったって、それで私は探偵さんに言った方が良いかなって思って代わりに来ました。余計な話でしたら御免なさい」

「いいや、良く話してくれました。あの旦那、浮気してると思ってたんですよ。あらら、風鈴さんも浮気っていうことですねえ。わかりました、ありがとうございました。お引き取りいただいて結構です。鳥市さんにはその話は誰にも言わないように、貴女もね」

山際さんが退出した後、

「それが原因でカミさんを殺すか?」

研田の反応を窺う。

「無いとは言えないでしょうが、何で船で?場所はいくらでもあるのに?」

「確かにそうだよな。アリバイあるしな」


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