第5話
「どうだ、犯人分かったかあ?」
そう和かな顔で神山が客間に顔を出す。
「先生、わかるはずないじゃ無いですか、殺人事件が起きたばかりで、加賀山探偵が事情聴取をしただけで、まだ、隠された事実が白日のものに晒されていない」
流石にベテラン出版社の橘だ。俺の冷やかしを見抜いている。この位の事が言えずに小説家の担当なんてできるはずもない。そう思って、新人の佐田をみると、真剣に犯人を考えているようだ。
原稿は妻のさきが10分ほど前にコピーを取って渡しているはずだった。
「佐田くん、そんな顔しても犯人はわからんぞ。ゆったり構えてないとな。ははは」
「先生、ここからは1時間毎に奥様が原稿のコピーを下さるんですね?」
「おう、そのつもりだ、まあ多少枚数は違ってくるかも知れんが、それは勘弁してくれな」
「そんなことは全く問題ありません。」石井も自信を覗かせているが内心はどうなのか、さっきから口を歪めている。
「じゃあ、執筆に勤しんでくるから」
そう言って書斎に戻る。
こういう原稿の渡し方は、面白いと心底思う。これからもこれでいこうと俺はほくそ笑む。
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