第4話
「大変です!人が殺されました!」
添乗員の山際さんの叫び声でうたた寝から目が覚めた。もうじき木星に着こうという所だった。
研田は部屋にはいなかった。何処へ、と思ったところへ、研田が部屋に青い顔をして駆け込んできた。
「加賀山さん、大変です!・・」
「殺人だろう・」
「えっ、どうしてそれを」
「今、山際さんから電話」
「あ〜、で、1号室の戸代さんの奥さんが殺されました。」
「分かった。で、?」
「はっ?」
「バカか、どうやって?いつ?どこで?発見者?だろうが取り敢えず」
「はい、絞殺、6時半過ぎに旦那の戸代三次さんが発見して、添乗員さんに船内電話で連絡して、丁度通りかかった僕が聞いて、現場を見てから、ここへ来たんです」
「現場保存は指示したんだろうな?」
「はい、それは言いました」
「じゃなくて、全員廊下に出てもらったのか?」
「いえ、それは・・」
「馬鹿野郎!旦那が犯人だったら偽装工作されるだろうが!直ぐ行って、現場保存!」
「はいっ!」
ったくう〜と思うが、仕方がない。そう思いながら通路に出る。現場は斜め向かいだ。
被害者はドアの上に設置されているクローザーに荷造り紐を掛けて、自分の首に巻いて、床から30センチほど尻が浮いた状態で死亡していた。一見自殺に見える。首に紐を外そうとする時にできる引っ掻き傷がない。世間では吉川線。だが俺は個人名が嫌いだからその言葉を使うことはない。
「研っ!写真は?」
「はい、色んな角度から撮りました。教えられていた通り」
「船長に言って、客と添乗員全員を食堂に集めてもらえ。事情を訊く」
ふと死体の近くの床に濡れている所があることに気づく。研を呼んで写真を撮ったか確認すると首を振るので撮らせる。それから少し触れてみると、思い通り水だったが、一応ハンカチに染み込ませて保存容器に入れておく。
それと死体の周りに紐の細かい切れ端が散らばっていることに気付く。それも写真を撮らせる。一つを拾い首を吊っている紐と比べると同じだ。恐らくクローザーと擦れて切れたのだろう。
衣類に乱れはない。
硬直具合から死後2時間以内1時間半以降という感じだ。顎がまだ固まっていない。死斑が脹脛辺りに集まり出している。
だから、夕方5時15分頃から5時40分ころと踏んだ。ただし、偽装が無かったとしてだ。
写真を全部確認してから、遺体を下ろすよう指示する。そして部屋や各所にあるゴミを捨てなように指示する。
集まる間に夫に立ち会いをお願いをして夫人の荷物を確認する。何故か証券類がビニールケースに入って出てきた。一応預かった。
「いつも持ち歩いてるんですか?」
「いや、分かりません。持ち物をいちいち聞かないので」
自殺や他殺に関わるものは何も無かった。
「研田、全員集まったか?」
「はい、加賀山さんを待ってます」
「先ず、旦那に俺の部屋に来てもらってくれ。で、俺の正体は話したのか?」
「いえ、話してません」
「じゃ、殺害予告があって、会社に頼まれて念のため乗船していたと伝えてくれ。それから旦那を呼んで」
数分して戸代三次がドアをノックして入ってきた。
向かい合わせに椅子に座る。
「この度はお気の毒なことで、こんな時ですが、事件解決のために少々聴かせてください」
「はっ、自殺では無いのですか?」
「そうかもしれません。が、そうでないかもしれません」
「でも、添乗員さんが警察に通報したら、あ〜自殺だねって言われたそうなんですが?」
「ん〜、私の経験からすると事件の可能性も若干あるかと、一応この船の会社から調査を依頼されてるもんで」
「いや、それは分かりますが、じゃあ旅行は中止ですか?」
「いえ、それを言う権限は私にはない、皆さんがどう思うか、特に貴方がどうしたいか、だと思いますが?」
「自分は続けて欲しいと言いました。妻がこんなところで自殺するなんてバカなことをして、ほかの皆さんに迷惑は掛けられないと思いますので」
「なるほど、後は会社の判断ですね。私はそれに従います。で、奥さんに自殺の原因はあったのですか?」
「いえ、ちょっと口喧嘩とかしてますけど、いつもの事で、今更です」
「どんなことで?」
「えっ、いや〜言わないとダメですか?」
俺はグッと目力を入れて旦那を睨みつけ頷く。
「はい、浮気です。疑ってるんです、家内が」
「本当のところは?」
「え〜、してました」
「過去形ですね、今はしてないんですね!」
念を押すと、目が泳いだ。現在進行中だ。
「奥さんについて不満はありますか?」
「金にうるさくて、所謂ケチなんです。もう少し小遣い増やしてというところで喧嘩に」
「飲み屋通いですか?」
戸代さんは苦い顔をする。
「あと、夕方5時から6時の間はどちらに?」
「え〜、5時近くから展望室へ行って、6時半前には部屋へ、それで見つけたんです」
「随分と長く居たんですね。誰かいましたか?」
「一人旅の女性がいました」
「ずっと?」
「いや、行ったときに既にいて、5時半過ぎまでいたと思います」
「荷造り紐は奥さん何時も持って歩くんですか?バッグに結構の長さで残ってたんで?」
「いやあ〜分かりません。お土産買ったら縛って持ち帰るつもりだったかも」
「以前にそういうことが?」
「確か、あったと思います」
その後、全員に話をきく。
カップルはその時間帯は部屋で映画を見ていたと証言。隣の部屋だが、物音には気が付かなかったという。
OL3人は5時前に時間差でサウナに入って、5時過ぎてから時間差で部屋に戻りテレビを見ていたと証言。サウナも部屋も一人になったのは広島さんだけだが、サウナに入ったのが3時半過ぎ、部屋に戻ったのが5時頃、後は二人が一緒だったので、一応アリバイは有りになる。共犯では無い前提だが。
一人旅の女は、展望室に5時半頃までいて、部屋に寄ってからリラク室へ行ったと証言した。展望室に入ったとき旦那さんと挨拶したので覚えていたという。
一人旅の男は、4時からずっとリラク室でサウナに入ったり、マサージ機かけたり、で、映画を見ている時に事件を知らされたと証言した。
全員アリバイは有りそうだ、強いて上げれば旦那の展望室にいた時間に多少の疑問が残った。
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