第3話

 太陽系旅行なんてのが流行する昨今。宇宙船太陽号は点検を終え出発場で待機している。出航時刻は8時。1時間前である。

パイロットは徳井源50歳、飛行歴10年のベテランである。副パイロットは氷山進35歳で修行中と、添乗員さんから紹介された。

添乗員は2名乗っている。山際恵と鳥市あおいと自己紹介した。見た目で山際さんがベテランで、鳥市さんは若手と想像される。可愛らしいピンク系の制服は歳を感じさせない、柔らかさとやさしがが醸し出されている。

 乗客は11名で添乗員から1週間一緒に旅をするので自己紹介しましょうと言われる。そして、年配者から口火を切るように促される。

 一番の年長が戸田三次とみお夫妻、今年初孫ができて大した可愛いがっているらしい。牧山啓介25歳と戸一香穂はカップルで出会った記念日旅行だそうだ。三条和枝と友田利香と広島すみれは同じ会社のOLで毎年この時期に旅行するらしい。研田蓮35歳と加賀山恭介44歳は自営業としか言わなかった。風鈴けい29歳はひとり旅が好きで時折旅に出るらしい。

最後、山田康三36歳も一人旅が好きらしい。

全員の自己紹介が終わると、皆さん1週間仲良くしましょうと締めた。

 次に、月、木星、土星の順に観光して最後に火星によるとの計画を、スケジュール表を手元において説明した。

 船内は最上階が展望室になっていていつでも入室OKで360度見渡せるそう。その下の階にコックピットがある。そこは入室禁止。その後ろに個室が10室左右に別れ並んでいる。

最後尾に添乗員室がある。

 用事のある場合は、船内の部屋とか展望室とか後で説明するリラクゼーションルームなどに船内電話があるので、受話器を外すと添乗員室につながるとの説明だった。

そして、階下にリラクザーションルームが用意されていて、サウナ、自動マッサージ機などが男女別に有るようだ。ムービールームとゲームコーナーは共通の場所にある。


 出航時間になり乗客は各部屋の椅子に着席し、念のためベルトをするようアナウンスが流れる。外の景色は大きな丸い船窓から楽しめる。室内モニターは発着時の船外の様子が映し出されている。

 出航して5分程でテレビに切り替えられた。メニュー表によれば、映画やアニメやニュースなどの専門チャンネルが用意されていて、惑星間の退屈な時間を楽しめる。

 1日に1回はリラク室で風呂やサウナには入りたい。

 

 先ずは月に向かっている。地球から見る月は淡く輝いてロマンチックだったり見て楽しめるものだが、実際に宇宙船で数百キロまで近づくと土ばかりの、色気のないつまらない衛星だ。

「研田(とぎた)、俺昼まで映画観てるから、お前若いんだから飛んだり跳ねたりしてこい!楽しみにしてただろう?」

「え〜、加賀山さん行かないんですかあ」

「俺、このツアー経験ありだから」

「そうですかあ、じゃ、若い女の子いるし行って来ます」

そんな会話から30分、月に着いた。

船内は重力制御が効いているので、地球にいるのと何も変わらない。

大きなスタジアムへ向かう人の列が窓から見える。既に重力が地球のそれより小さいので、半分飛んでいる。慣れていないひとは手摺にしがみついて流れてゆく。


 俺は観光会社から貰った脅迫状をバッグから出して、内容をもう一度確認する。

「6月21日8時発の太陽系観光ツアーで殺人が起きる。止めさせろ!」

内容からは脅迫状ではなく、殺害を防止してほしいという依頼だ。警察はあっさり悪戯と決めつけた。それで、念のため私立探偵に調査を依頼したのだ。研田は若いせいか遊びに来ているようだ。ため息が出る。


 乗船名簿やわかる範囲での個人情報も貰っている。しかし、会った感じでは殺人までを臭わす人間はいなかった。

それを仕舞ってから、船長に会いに行こうと思い、添乗員に声掛けして案内して貰う。

船長も添乗員も俺が乗っている事情は聞かされているはずだ。

添乗員がコックピットのドアを叩く。

返事が返ってきてガチャリと鍵が開く。

添乗員がドアを開けて俺に入室を促す。中は結構広い。休憩するためのソフアやシャワーとトイレも装備されている。食事はエレベーターで搬送される仕組みのようだ。

「こんにちは、探偵の加賀山です」

「どうも船長の徳井です」隣のサブキャプテンにも挨拶する。

「一通り確認しましたが、怪しげな人物はいませんね」

「そうですか、単なる悪戯なら良いのですが」

「普通の人が殺人事件起こすのがこの世ですから、注意して見てます。添乗員さんも気をつけて、気になることあったら直ぐ連絡ください。無駄になっても良いので」

「はい、よろしくお願いします」

その後、二言、三言交わして辞去した。

展望室やリラク室、食堂も一通り見て回った。

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